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別府温泉辞典

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プレートテクトニクス : plate tectonics

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 1960年代の終り頃から発展した、固体地球表面近くの現象や構造を統一的に理解しようとする学説。これによって私たちの自然科学的な地球観は革命的と言えるほどに変わりましたが、その淵源は、コロンブス一行の大西洋横断を受けて、16世紀に大西洋両岸を含む世界地図が作成されたことにあるのではないでしょうか。というのは、1620年頃、その地図を見たフランシス・ベーコン(Francis Bacon, 1561-1626)が大西洋両岸の平行性に注目し、300年後、その平行性からウェゲナー(ヴェーゲナー:Alfred Wegener, 1880-1930)が「大陸移動説」〔注1〕を提唱して(東中,1955)、プレートテクトニクスにつながったと思われるからです。

〔注1〕大陸移動説
大陸は分裂し、水平に移動するという学説。ウィキペディアなどの外部ウェブサイトを参照してください。なお、ウェゲナーの大陸移動説に関する著作は、下記の日本語訳が出版されています。
「大陸と海洋の起源(上)(下)」(都城秋穂・紫藤文子訳),岩波文庫.


 プレートテクトニクスの骨子は、固体地球〔注2〕の表面はさまざまなサイズの硬いプレート(岩板:岩石圏【lithosphere】、代表的な厚さは100km程度)に分割され、それらが流動性のある地層(岩流圏【asthenosphere】)に乗って相互に動くことにより、プレートとプレートの境界でさまざまな現象が発生し、かつ、さまざまな構造が形成される、というものです。現象とは「大陸の移動」・「地震」・「火山活動」などであり、構造とは「大山脈」・「大峡谷」・「断層地形」・「海溝やトラフ」などです。

〔注2〕固体地球
大気や海洋などの流体圏を除いた地球。地表面より下部を明示する場合に用いられる術語。


 世界中の地震分布(付図1:理科年表2015年版)をみると、それらは帯状に分布していることが分かります。主要な地帯は「太平洋を取り巻く地帯(環太平洋地帯:日本列島が含まれる)」・「インドネシアから西方へ向かい、ヒマラヤ・中近東を経て南ヨーロッパに至る地帯」および「太平洋・大西洋・インド洋などの海洋底の中央部」で、これらがプレートの境界にほぼ一致すると考えられています。付図2は、理科年表や教科書(瀬野,1995など)の図を参照して、各プレートに着色したものです。
 なお、上記の境界のうち、「環太平洋地帯」と「インドネシア-ヒマラヤ-南ヨーロッパ地帯」はプレートが互いに近づき(収束境界)、「海洋底」ではプレートが離れています(発散境界)。これに加えて、海洋底の境界には、横方向にずれる境界が付随しています(横ずれ境界:トランスフォーム断層とも呼ばれる)。


付図1 世界の浅発地震分布図(1991~2010).
マグニチュード4以上,深さ100km以下.


付図2 プレート分布図
AF: アフリカプレート, AN: 南極プレート, AR: アラビアプレート,
AU: オーストラリアプレート, EU: ユーラシアプレート, IN: インドプレート,
NA: 北アメリカプレート, NZ: ナスカプレート, PA: 太平洋プレート,
PH: フィリピン海プレート, SA: 南アメリカプレート.

なお、プレートをより細かく分割する見解も提示されている。たとえば、東北日本・オホーツク海・カムチャツカ半島が属する範囲は、北アメリカプレートとは別の独立したプレートとして、オホーツクプレートと呼ばれることがある。


 海洋底の発散境界では、離れていくプレート間の隙間を埋めるように、下方から高温の岩流圏物質(マントル物質)が上昇してくるので、新しい海洋底が作られ、長大な高まりが生じます。代表的なのが大西洋の中央を北極域から南極域まで連なる高まりで、大西洋中央海嶺と呼ばれています。その頂きが海面上に露出したのが、火山島のアイスランドです。また、太平洋プレートの東端境界の高まりは、東太平洋海嶺(または東太平洋海膨)と名付けられています。
 収束境界では、二つのプレートが衝突して盛り上がったり、一方のプレートが他方のプレートの下に沈み込みます。世界の屋根「ヒマラヤ山脈」は、インドプレートとユーラシアプレートの衝突によって形成されました。これに対し、環太平洋地帯では、海洋底を作っているプレートが大陸のプレートの下に沈み込んでいます。すなわち、海洋底が消滅しています。このような地帯は沈み込み帯と呼ばれています。我われが住んでいる日本列島一帯は、代表的な沈み込み帯です。
 付図2に示されているように、日本列島近辺には4つのプレートが存在します。これらのうち、西南日本が属するユーラシアプレート(EU)と東北日本が属する北アメリカプレート(NA)は大陸プレートで、太平洋プレート(PA)とフィリピン海プレート(PH)は海洋プレートです。
 仮にEUが静止しているとしますと、PHは、北北西向きに移動してEUに接近し、その下に沈み込んでいます。その沈み込み口が「南海トラフ」および「琉球海溝(南西諸島海溝)」です。他方PAは、西北西向きに移動し、NAおよびPHの下に沈み込んでいます。NA下方への沈み込み口が「日本海溝」と北方の「千島カムチャツカ海溝」、PH下方への沈み込み口が「伊豆小笠原海溝」と南方の「マリアナ海溝」です。
 2つの海洋プレートは1年間に数cmの速さで動いていますので(PAの速度の方が大きい)、プレート境界部には大きなストレスが溜まりますし、押される側の大陸プレートにもストレスが溜まります。そして耐えきれなくなると、岩板が跳ね返ったり、壊れたりします。すなわち地震が発生します。また、沈み込むプレートもストレスを受けますから、プレート内部でも地震が発生します。日本列島域で地震が多発するのは、このためです。
 さて、日本付近の海洋プレートは、長い期間にわたって、低温の海洋深層水と接触していましたから、沈み込むプレートも低温のはずです。その証拠の一つとして、300kmあるいはそれより深所で地震(深発地震)が発生することが挙げられます。それにもかかわらず、沈み込み帯では火山が活動し(すなわち、岩石が溶けてマグマが発生している)、熱水活動(温泉)も活発です。この不思議さについては、本バーチャル博物館のアーカイブス(Archibes)の「大分県の温泉(10)」の「9.地球的視野からみた大分県の火山性温泉(あとがきに換えて)」を参照してください。沈み込み帯におけるマグマ発生の詳細は、たとえば「巽(1995)」に書かれています。

執筆者由佐悠紀)
参考文献
  • 東中秀雄(1955):「物理地学」,朝倉書店.
  • 巽 好幸(1995):「沈み込み帯のマグマ学-全マントルダイナミクスに向けて」,東京大学出版会.
  • 瀬野徹三(1995):「プレートテクトニクスの基礎」,朝倉書店.
  • 国立天文台(2014):「理科年表 平成27年」,丸善.