No.6
「別府温泉十万歳」
温泉井戸の多いこと、温泉の水量と熱量の豊富なこと、泉質の種類が多様なこと、訪れる旅行客の多いことなどさまざまな点からみて、別府温泉が世界で最大規模の温泉地の一つであることは確かなような気がする。
などと、温泉の専門家と言われているにしては、あいまいなことを言うようだが、この種の判定は大変に難しいのだ。
それより、あらゆる種類の温泉現象に出会うことができるという点が、研究者にとっては実に魅力的な温泉地なのである。
これまでに行われてきた数多くの研究のおかげで、現在の別府温泉のメカニズムはかなりのところまで分かっている。
ところが、その温泉活動がいつごろから始まり、どのように発達してきたのかという地学的な歴史となると、漠然としたイメージらしきものはあったものの、科学的な根拠に基づいた議論はなかなかできなかったのである。
ようやく最近になって、そのごく一部、つまり別府温泉の年齢を推定することができた。推定法による不完全な部分があるとはいえ、温泉の年齢が見積もられたのは、私の知るかぎり、これが初めてである。
不備なところは修正していかねばならないが、ともかく、少なくとも十万年はたっているらしい、という結果が得られた。これをどうとらえるべきなのかまでは、思い至っていない。別府温泉というシステムの発達過程も分からない。これからの課題である。
※別府温泉の年齢は、後に、五万年程度と修正された。
- 「大分合同新聞」夕刊 1992年11月2日 -
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