No.9
「温泉分析書」
二年ほど前、あるバス会社が将来をみすえて、大分県の自然や歴史を紹介する冊子を出版した。長距離バスなどに備え付けられていたので、ご覧になった方もおられると思う。
私も「おおいたの温泉」という一文を寄稿させていただいた。温泉には、入浴すること以外に、別の楽しみ方がある。旅館やホテルなど公共の温泉場には温泉分析書が掲示されているはずだから、それを通して、温泉の科学を楽しむことができるに違いない。温泉は自然科学の身近な宝庫であって、大分の温泉は優れてそうである。というようなことを書いた。
昨年の夏、別府のビーコンプラザで日本温泉科学会の大会が開催され、全国から温泉の研究者が集まった。研究発表が主体なのは言うまでもないが、大分の温泉を観察してもらう機会でもある。最近、日本温泉協会の機関誌『温泉』に、その探訪記が掲載されたのだが、あるホテルの掲示には、肝心の分析書が欠落していて極めて不備だと指摘されたのである。
私自身も、似たような例にときどき出会う。「おおいたの温泉」にあんなふうに書いたものの、残念ながら実情は、温泉の科学が楽しめるようには必ずしもなっていない。
別府をはじめとする大分の温泉が天恵の宝であることは、日本人が等しく認めるところである。これに応えるばかりでなく、将来の発展のためにも、分析書を正しく掲示するという基本的な行為が不可欠である。
※平成19年10月から10年ごとに分析・掲示が義務付けられました。
【環境省の改正温泉法に関するパンフレットです。】
https://www.env.go.jp/nature/onsen/docs/pamph_aramashi/full.pdf
- 「大分合同新聞夕刊」 1999年1月 -
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