No.12
「時間の尺度」
開設八十五周年を迎えた京都大学地球物理学教室の同窓会が、この三月にようやく発会した。その発会式で「温泉-陸域と海域の物質循環系」という題の短い講演をした。温泉水に含まれている主要な成分である塩素は、どこからどのようにして供給されるのか、という話である。
簡単に書くと、火山地域の温泉の塩素は、マグマを通って、海水から来た。現在の温泉の塩素は、数百万年・数千万年前には、海水中の塩素であった。そして、わき出た温泉水の塩素は、海に戻る。そして、また、その塩素は、いつかは温泉になって陸に現れる。そして、また、また…。塩素は、火山・温泉を通して、陸と海の間を循環している。
このストーリーに至るまでには、長い年月があった。もちろん、別府の温泉での調査が基礎にある。別府の温泉から流出している塩素の量が一年当たり一万三千トンという値を出すまでに十年を要した。その継続年数(本欄で紹介したことがあるが、約五万年)を見積もるまでに、少なくとも二十年は掛かっている。別府の温泉の塩素の源についての最初の論文は、大戦のさなかの昭和十八年に書かれた。それから数えると、半世紀以上もたっている。
今、国立大学は大変革計画に直面している。来年の四月には法人となり、六年をめどに具体的な成果を出すことが必須の条件となるはずである。数年の時間尺度で、超長の時間を持つ自然と付き合うことができるのであろうか?
- 「大分合同新聞夕刊」 2003年4月 -
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