2021.12.26
No.68「お笑いぐさ」
ついこのあいだ、夜行列車の寝台にねそべって、週刊誌をすみからすみまで眺めていたら(それほどまでしなくてもいやでも目に付く)グラビアに、この7月12日(日本時間)に起こった今世紀最大級という皆既日食の観測ツアーの記事があった。ただし、何をもって最大級とするのか、そのお墨付きの根拠は知らない。
ともかく、それを観測するためにか見物するためにか、4000人もの日本人がハワイ島に集まったと言う。ところが、かんじんの皆既日食の間は、雲がかかって全然見えず、折角のたのしみがふいになってしまったのだそうである。
ツアーの参加者はぼう然と空を見上げ、カネをかけて来たのにと怒りをあらわにする人もいて、旅行業者はうつむいたままだった、とある。現場の雰囲気が想像されて、気の毒でもあるし、バカバカしくもあるし、旅行業者はどのくらいもうかっただろうかとふところ勘定をしたりして、ずいぶんと楽しませてもらった。久し振りのお笑いぐさである。
そうして笑っているうちに(夜行列車の寝台で、声をひそめて笑っているのもお笑いぐさだが)、このツアーを企画した方も、それに乗せられた方も、もしかしたら、自然現象は自分の都合のよいように起こるはずであると信じていたのではなかったのか、という気がしてきた。そうだったとすれば、これはいささか気味の悪い話である。
ー1991.8 大分合同新聞 別府版ー
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