2022.3.26
No.71「古都の秋」
「読書の」とか「スポーツの」とか「食欲の」とか、秋につく枕詞的な標語は、うんざりするくらいの数になるはずであって、もうたくさんだと言われるかもしれないが、もうひとつ「学会の」というのを付け加えさせてもらいたい。9月から11月の前半にかけては、学会主催の学術講演会のシーズンだからである。
最近は、一方では学問分野の細分化、他方では学際的研究の増加にともなって、新しい学会が続々と設立されている。その多くがこの季節に大会を開催するから、ラッシュの度合いはますます激しくなった。それに生まじめに付き合おうとすれば、めぐり合わせ次第では10日間も出ずっぱりで、日本列島を駆けめぐることにもなりかねず、旅費も時間もたまったものではない。
日本の学会ではしにせに属する陸水学会が、11月の初めに奈良であった。「いい季節に、けっこうなことですね」という向きもあったけれども、実情はそんなものではない。学会の事務的なことにかかわりあっているので、あんまりさぼるわけにもいかず、猿沢の池から興福寺付近をちょっと歩いただけである。しかし、残念なことに、折からの連休の人出で、都会の雑踏と同然だった。
国立博物館では、ちょうど正倉院展が開かれていたのに、それを見ることもできなかった。ただし、友人によれば、ここもまた大変な込みようで、人の頭を見たようなものだったそうである。
というわけで、私にとっては、趣も面白くもない、とんだ古都の秋であった。
ー1991.11 大分合同新聞 別府版ー
★温泉マイスターnoteにも掲載しています
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