2022.6.26
No.74「牛刀」
このようにあわただしいご時世では、旧聞に属するのかもしれないのであるが、今年2月6日付の本紙・夕刊で紹介していただいたので、ご記憶の方もおられると思う。私たちの研究所では、ここ数年来、別府地域の地下構造の調査をしてきた。世界でも有数規模の温泉地の地下は、どんな風になっているのかを知りたかったのだ。
ボーリングしたのではない。ハイテク機器を使って、地表から探ったのである。いくつかの方法の中から、音波探査と重力探査の2つを選んだ。自然科学にたずさわっているくせに、機械に弱い。というよりは、そうした今様のものは信じたくないという気分がいまだに残っているらしく、正直なところ、はたしてうまくゆくのかどうか、一抹の不安があった。瓜生島調査で、近代的地下探査法の能力のほどは経験していたにもかかわらずなおだから、われながらかなり頑迷だと思う。
使ってみると、両方とも威力十分で、特に音波探査は私の期待をはるかに超えた。地下数千メートルまでの地層の状態だけでなく、ここ100万年におよぶ変動の痕跡までもが、明瞭に浮かびあがってきたのである。
このことが報道されると、水底の遺跡の調査に使ってみたいという問い合わせがあった。しかし、私たちが使った方法は、エネルギーが大きすぎて、地下数十メートルまでの浅い所の調査には不向きである。まさに、鶏を割くに牛刀を用いるであって、ハイテク技術にも向き不向きがある。
ー1992.3大分合同新聞 別府版ー
★温泉マイスターnoteにも掲載しています
地球のはなし
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