2022.7.26
No.75「イヌビワ」
ビワと言っても、イチジクの仲間である。潅木か小喬木といった小さな木で、春先に芽吹き、1センチぐらいの丸い実がなり、夏から秋に熟する。濃い黒紫色で、つやつや光って、かわいい。
長崎の田舎にいた子供の頃、道ばたになっているのをよく食べた。
少しざらざしたが、甘くてうまかった。
長じて都会に出てからはすっかり忘れていたのだが、40年以上も前、別府赴任任してきて、懐かしい実に再会した。溝のそばや畑のはずれなどに自生らしいのがあって、子供たちに食べさせたりした。
しかし、いつの頃からか、見かけなくなった。
おそらく、道路の整備や宅地化などのとき、邪魔者あつかいされたのだろう。
ところが今年の夏、近所を散歩していて、立派な木に気付いた。
道路より一段高い石積みの上に、いろんな草木に混じって、径5センチほどの幹が伸び上がっていたのである。木の大きさからみて、ずっとそこに立っていたはずなのに、それまでなぜ見えなかったのか。
道路まで垂れた枝先の実は、記憶通りの甘い味がした。が、つい先日、ほかの木々といっしょに切られてしまった。
その理由は、分からないでもない。半ばノスタルジックな楽しい気分は一瞬のものでしかなかったけれど、切り株は残っている。また芽吹く可能性もある。
ー1992.11大分合同新聞 別府版ー
★温泉マイスターnoteにも掲載しています
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