2023.3.26
No.83「モスクワの地下鉄」
モスクワで驚いたものはたくさんある。まず、国際空港の出口が粗末なので驚いた。それでも、人々がごった返し、タクシータクシーとささやく客引きが多いので驚いた。つぎに、博物館や美術館に金銀財宝・美術品があふれているので驚いた。
もっとも驚いたのは地下鉄である。小川三四郎君風に言えば、こうなる。
以前から、映画「ひまわり」に登場した地下鉄のエスカレーターを見たいと思っていたので、クレムリンの近くの革命広場駅にもぐり込んだ。
6ルーブル半を払い(1円にもならない。公共料金はほんとうに安い)、薄暗い駅舎の改札口を抜けて人の流れについて行くと、深く深くうがった大きな斜坑のはるか下方までエスカレーターが伸びていて、おびただしい数の人々を運び下ろし、また運び上げてくる。それも、日本の倍ほどのスピードで動くのだからすさまじい。
行き着いた先は、大理石張りの巨大な空間であった。天井からはシャンデリアが下がり、壁は絵や彫刻で飾られている。このさながら宮殿のようなプラットホームに、ひきもきらず列車が到着しては人の群れをはき出し、ひしめきあう人々を飲みこむと、ものすごい勢いで走り去る。
この活力に満ちた地下の世界は、報道されているロシアの姿とは明らかに違っていた。この国の底力の大きさを象徴しているのではないかと思ったのである。
ー1993.8 大分合同新聞 別府版ー
★温泉マイスターnoteにも掲載しています
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