2023.7.26
No.87「満員列車で」
ブカレスト発ウィーン行きの列車は、出発時にすでにほとんど満席であった。国際列車とはいっても、しばしば停車するので、たちまち超満員になった。すれ違う列車も、あふれんばかりの込みようである。半世紀も昔の子供のころの、人いきれのする満員列車の記憶がよみがえってきた。
私は列車の旅が好きで、今でも夜行列車にはよく乗る。たいていは空いていて、この間の新大阪発・彗星は、私の車両には5人くらいしか乗っていなかった。週末の下り新幹線は、ときに超満員に近い状態になるけれども、レルーマニアの列車ほどではない。
日本の旅行者の数は増え続けているはずなのに、通勤時や盆暮れなどを除けば、鉄道で満員に苦しむことはなくなった。交通が多様化したことは分かっていても、かつての、あのものすごかった人々の群れはどこに行ってしまったのかと、不思議である。
交通の多様化が進んだことの基礎には、1列車当り、車1台当りのエネルギー効率が高められたことがあるのだろう。しかし、1車両に数人とか、車1台にドライバー1人とかいう実情に出会うと、人間1人当たりとしてのエネルギー効率は低下しているに違いないという気がする。
満員の国際列車で、これは効率の良い輸送法だと、半ば皮肉まじりに思っているうちに、日ごろさまざまな便利な交通手段を享受しているのが、なんだか後ろめたくなってきた。
ー1994.12 大分合同新聞 別府版ー
★温泉マイスターnoteにも掲載しています
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