2023.10.26
No.90「インク瓶」
なんだかんだと雑用に追われているうちに、12月も下旬になってしまっていたのは、例年のごとくであった。
いつもだと、年賀状の宛名書きは家人に頼むことになるのだが、昨年の暮れは、自筆でと思いたった。しかも、ボールペンではなく、万年筆で書きたくなった。
机の引き出しを探ったら、10本近くもある。ほとんどが安物ばかりの中に、私にとっては不相応なぜいたくなのもある。
宛名書きには、ペン先も黒い軸も太い、モンブランがよさそうである。インクの充填は、インク瓶にペン先を差し込んで、ピストンで吸い上げるという旧くさい方式である。好みのブルー・ブラックの瓶は空も同然で、底にわずかに残っているだけである。とても吸い上げられそうにない。
近くの文房具店に行ったら、スペアのカートリッジばかりで、インク瓶は無い。大きな専門店にならあるのだろうが、出かけるほどの熱意は無く、水道水で薄めて間に合わせた。
つい先日上洛した機会に、かなり大きな店と大学の生協をのぞいてみたら、目当てのインク瓶はやっぱり見当たらない。
もはやインク瓶を使う時代ではなくなったのかと、ちょっとした感慨を覚えながらも、つい数年前までは盛んに使っていた私でさえ、その存在を忘れていたのだからと、妙に納得したのである。
ー2021.10 大分合同新聞 別府版ー
★温泉マイスターnoteにも掲載しています
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