2024.1.26
No.93「アトランタの楽しみ」
高校を卒業するまでの12年間、運動会ほどいやなものはなかった。走るのが極端に遅かったからだ。小学校5年のとき、国語の時間に運動会の詩を作ることになった。何かを強調するように、たとえば「バンザイわたしが1等だ」は、運動会の雰囲気をよく表現していますね、などと先生から指導されて、ひどく落ち込んだことを思い出す。
なにしろ、体育の先生によれば、ももは上がらず、代わりにあごが上がり、おまけに体はそっくり返るという、悪いフォームの典型だったらしい。努力はしたつもりだが、おいそれとは良くならないもので、最後にはあきらめていた。その逆作用もあるのだろう。私は陸上競技を見るのは好きで、美しいフォームのランナーには、たわいもなく感激してしまう。
さて、今、ヒーローがいる。400メートルと200メートルで連戦連勝のマイケル・ジョンソンである。すごいなあと思うのだが、ももは上がらず、あごは上がり、体はそっくり返るという、かつての私みたいな悪いフォームの典型のようにみえる。相違点は、足の回転の早さだけだ。
惜しいことをした。フォームなんか気にしないで、回転を早める練習をすればよかった、と思うのは、たぶん浅はかで、あの回転力こそが天分なのに違いない。その回転を見るのを楽しみに、アトランタを待っている。
ー1996.7 大分合同新聞 別府版ー
★温泉マイスターnoteにも掲載しています
地球のはなし
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