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地球のはなし  別府温泉地球博物館 代表・館長 由佐悠紀

2024.3.26

No.95「祖母の山頂の」

 高校3年になる直前、昭和33年の3月だったから、もう40年近くも昔のことになる。春休みを利用して、九重から祖母まで縦走した。もしかしたら逆コースだったかもしれない。記録を取ったことは覚えているのだが、どこかで散逸してしまったし、記憶もはっきりしない。
 法華院でテントを張ったこと、大船山に登ったこと、スガモリ越えを通ったこと、寒の地獄をのぞいたこと、祖母山から傾山に行ったことなどを断片的に覚えているだけだ。スガモリ越えを通ったからには、硫黄山の噴気も見たに違いないのに、全然記憶がないのは、どういうわけだろう。具体的なことはあやふやだが、全体の印象は非常に明確で、ともかく寒かった。法華院では、小川のヤマメが、手でさわっても身動きしないくらいに、凍てついていた。
 祖母では大雪で、両の指が全部膨れ上がって、凍傷寸前にまでなったほどだ。寒くて寒くて、ほうほうの体で山小屋に逃げ込んだ。今にして思えば、「九合目小屋」だったのだろう。
 先客がいた。中年の男と少年2人。その3人が、祖母の山頂のお月さんこんばんは…(注)と、三橋美智也ばりに歌いながら、なんだか温かそうなものを食っていた。
 その九合目小屋が建て替えられるそうな。たった一度の縁だったが、大きにお世話になった。ちょっと貢献をと、思っているところである。

ー1996.9 大分合同新聞 別府版ー

★温泉マイスターnoteにも掲載しています
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