第5回堀田温泉「夢幻の里 春夏秋冬」~四季の移ろいを映す露天風呂~
シニア・マイスター 甲斐心也
今回はシニア・マイスターの甲斐が、大分県別府市の堀田温泉の立ち寄り湯「夢幻の里春夏秋冬」をご紹介します。
別府八湯の堀田温泉は、別府と由布院・日田・大宰府を結ぶ交通の要衝にあたり、江戸時代初期には温泉場が開かれていました。「夢幻の里 春夏秋冬」は、大分自動車道別府ICからわずか5分の場所にあり、朝見川源流の谷川を挟んで男女別大浴場(「虹の湯」「夢幻の湯」)と3つの貸し切り湯(「月の湯」「蛍の湯」「滝の湯」)が点在しています。
分析書によれば、泉質は単純硫黄泉(硫化水素型)で、泉温64.8℃、PH6.28、成分総量575mg、遊離硫化水素3.8mgという値ですが、源泉は噴気だけで湯は湧いていないそうで、湧水に噴気を当てて加温する噴気造成泉を浴槽内で測定した数値だという事です。
ここは春夏秋冬を通じていつでも美しい自然が楽しめますので、過去の入湯記録から四季の移ろいを映す露天風呂の風情をお伝えしたいと思います。
再開場(2014/1/19) 長く閉鎖されていた堀田の名湯が、昨年(2013)11月26日に再開場、翌1月17日からは別府八湯温泉道に加入と聞き、さっそく訪れた。道中には夜来の雪が残り、園内を流れる谷川のせせらぎの他は鳥の声もない。
受付を乞うと真新しい休憩所を通って大浴場「虹の湯」に案内された。斜面を切り開いて作られた露天風呂は湧水に噴気を当てた造成泉のようだ。白濁の単純硫黄泉は、馥郁たる香りを漂わせる弱酸性の湯だ。更に整備されて自然豊かな秘湯に成長することを期待している。
春(2017/3/19) 堀田郷には2つの水系があり、北の水系は境川に注ぎ、南は朝見川に注いでいる。その源流は砂防ダムで、別府扇状地の成り立ちを見事に体現している。ここは朝見川水系の上流部にあり、朝見川断層崖の南の縁にそって流れ、乙原川や鮎返川と合流して、別府湾に注いでいる。
さすがにこの辺りは「春は名のみ」の風情で、ヤマモミジは新芽を吹く様子もなく、ヤブツバキが名残の花を落としていた。
若女将の明るい声に迎えられ、「虹の湯」に向かうとそこは無人で、青白い濁り湯が木漏れ日を浴びて待っていた。掃除の行き届いた露天の湯は適温に調整され、硫黄の香りも強すぎず快適だ。ゴウゴウと源泉の噴気の音が間近に聞こえ、時よりウグイスの幼い鳴き声も聞こえていた。
夏(2016/7/6) ここならば下界より多少は涼しかろうと訪ねてみると、盛大な蝉時雨が出迎えてくれた。大分市内などはまだ本格的にセミの声を聞かないが、市街地に生息するアブラゼミやクマゼミとは違う種類のセミのようだ。
例によって若女将と温泉談義を長々としてしまったが、彼女の湯を愛する気持ちがヒシヒシと伝わってきて、本当に楽しい時間があっと言う間に過ぎていった。とはいえ、ここは先の(熊本)地震で倒木・落石・浴槽のひび割れなどの被害があり、2週間ほどの休業を余儀なくされた。その後は梅雨の大雨で営業休止となかなか大変のようだ。
男湯の「虹の湯」は、いつもよりぬるめに調整されていて、この日にはぴったりだった。
秋(2015/10/12) ここの湯は138度の源泉噴気を山水に吹き込んで、温泉成分を溶かし込んだ噴気造成泉で、青白濁の単純硫黄泉だ。そのため、湯の花が舞うタイプではなく、まんべんなく白濁し、硫黄香はやや弱いタイプだ。森の奥にひっそりと佇む感があり、野鳥の甲高い鳴き声が聞こえてくる。
前回の訪問時は県による渓流の護岸工事の真最中だったが、今回はその工事も完了して、元の静かな佇まいを取り戻していた。
2013年に経営を引き継いだ藤田さんご一家が、いい温泉にしようと情熱を傾けているのがひしひしと伝わってくる素敵な場所だ。
冬(2016/2/7) 別府市内とは思えない「秘境」の感のあるここは、さすがに気温が低く、冬枯れた木々に取り囲まれている。それでも春の気配はそこここにあり、藪椿は今を盛りと赤い花をつけ、朝見川源流の渓流沿いの白梅は1,2輪花をほころばせていた。
若女将と「造成泉」という言葉について、「温泉偽装」のようで印象が悪く、何かよい表現はないものかと話し合った。かつて週刊ポストが九重町の筋湯温泉を「(八丁原地熱)発電所の工業廃水を温泉と偽装」として取り上げたことがあったが、温泉法でも認めらており、全く問題はない。
ここなどは濃厚でありながら、むしろ中性の肌への刺激の少ないマイルドな湯で、優れた泉質だと太鼓判を押せるものだ。
なお、お風呂は全て露天風呂のため、天候によって臨時休業する事がありますので、悪天候の日は事前に連絡してから訪れることをお勧めします。
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