第7回群馬県草津温泉 源泉探訪 ~酸性泉の魅力たっぷり~
温泉マイスター 高橋秀明・高橋潤子(広島市在住)
源泉を楽しみたい―。温泉ファンの熱い思いは、いつでも、どこでも、きっと変わりません。
多彩な泉質の湯が満喫できる別府とよく比較される温泉といえば、群馬県の草津温泉でしょう。圧倒的湯量を誇る酸性泉のワンダーランドは、単調と思いきや「案外まろやか」だったり、湯の花がふわりと浮かぶ白濁湯だったり。微妙な肌触りや色合い、香りの違いを源泉に感じながら、歴史ある旅館や路地にたたずむ共同湯を巡れば、楽しさがグッと増します。
古来から、岐阜県の下呂温泉、兵庫県の有馬温泉とともに日本三名泉に数えられ、「源泉主義」を掲げる草津温泉。約50~90度の酸性泉(pH1・5~2・1)が毎分3万2300リットル(ドラム缶で約23万本分)も自噴し、日本一を誇ります。源泉は、古くから知られる湯畑、白旗、地蔵、西(さい)の河原、煮川のほか、1970年に中心部から離れた鉱山で湧出した万代鉱(ばんだいこう)が代表的です。このほか、わたの湯、君子の湯など旅館や個人所有を含め数十カ所の源泉があるといわれています。
◇まちのシンボル「湯畑」
これら源泉のシンボルが、芸術家・岡本太郎さんが広大な泉源広場のデザインを監修した「湯畑」です。毎分4000リットルもの湯が湧き出し、木の樋からあふれる湯の滝は豪快そのもの。エメラルドに輝く湯とともに、立ち上ぼる湯煙も情緒を盛り上げてくれます。夜はライトアップされ、広場ではイベントが開催されるなど、立ち並ぶ飲食店やお土産店とともにそぞろ歩きの中心になっています。
源泉を生かした入浴ができるのもユニークです。湯畑に面した場所に2013年に再現された町営日帰り温泉施設「御座之湯」では、湯畑と万代鉱という草津の主要な2源泉の入り比べができます。湯畑源泉は、酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉(硫化水素型)で、pH2・1。ピリピリ感は少なめで、肌あたりはマイルドな印象です。
一方の万代鉱源泉は、湯畑を上回る毎分6200リットルもの湧出があり、pHも1・6と強酸性。泉質は酸性の塩化物・硫酸塩温泉で、硫黄泉ではありません。直球型らしくピリピリ感もありますが、サラッとした湯上りです。メタけい酸の含有量が多い(500ミリグラム、ほかの源泉も200ミリグラム前後)のも、隠れた特長といえます。
人気があるのが、湯畑の隣で湧出している白旗源泉。近くには同名の共同浴場があり、湯の花舞う白濁したアチチの湯につかれます。このほか、地蔵源泉や煮川源泉は共同浴場や一部の施設だけでしか味わえないため、こちらもコアなファンが多いようです。
◇「自家源泉」も魅力
自家源泉を持つ旅館やホテルも魅力です。湯畑に面した旅館・草津舘の「若乃湯」源泉は、湯の花も多めでまろやかな浴感があります。もう一つの内湯には、白旗源泉が引かれているのも嬉しいポイントです。そして、草津でも希少価値が高いのが、ての字屋の天然岩風呂です。岩壁から湯が染み出すように湧いており、みごとな硫黄分の析出も必見です。
このほか、元湯泉水館は自家源泉「君子の湯」で知られ、「わたの湯」は草津ホテル別館綿の湯などで入れます。草津では珍しい37度前後の源泉「大日の湯」は、極楽館で西の河原源泉とのブレンドで楽しめます。
草津には日帰り温泉施設のほか、共同湯も19カ所あり、「千代の湯」「地蔵の湯」「白旗の湯」の3カ所は観光客にも公に無料開放されています。入浴マナーや時間帯に気を付ければ、ほかの共同湯にも入れるそうで、湯畑や西の河原など使用されている源泉も違いがあります。中には2人入るのがやっとといった、こぢんまりとした湯船を持つ共同湯もあり、湯小屋の雰囲気もそれぞれ味わいがあります。
◇「時間湯」「上がり湯」の文化
独特の湯治法「時間湯」も、源泉を生かした伝統的な取り組みの一つです。湯長の号令で高温の湯を板で「湯もみ」し、47~48度に下げたうえで3分入浴。「千代の湯」と「地蔵の湯」では体験が、「熱の湯」ではショーが楽しめます。
さらに、刺激の強い草津温泉には、機能浴の先駆けともいえる「上がり湯」が存在します。有名なのが、東南約15キロメートルにある沢渡温泉です。湯は、アルカリ性のカルシウム・ナトリウム―硫酸塩・塩化物泉。肌の修復や保湿・保温効果が期待できます。
このほか、レトロな木造建築と足元湧出の混浴風呂で有名な法師温泉、「万病に効く」という伝えからにぎわう「四万温泉」も付近にあり、どちらの湯も優しい肌あたり。群馬県の温泉は大きく4つのエリアに分けられ、川底から湯が湧く「尻焼温泉」や、草津のさらに山あいに位置する絶景と白濁の硫黄泉が楽しめる「万座温泉」など200カ所があり、「おんせん県おおいた」にも勝るとも劣らぬ「温泉天国」です。
◇草津と別府を極める
温泉の知識を広めようと、草津では毎年、認定資格「温泉観光士」養成講座(日本温泉地域学会主催)が開かれています。別府市で来月に開催される日本温泉科学会第71回大会(「温泉マイスター」運営の別府温泉地球博物館が事務局)では、地域学会会長でもある温泉評論家・石川理夫さんの特別講演「温泉の日本史と別府」が5日にあります。大分と群馬で源泉を極める。そんな貴重な機会になるかもしれません。
<注>2015年9月、2016年9月、2018年1月に訪問。入浴感は個人差があります。
<参考>草津温泉ポータルサイト「湯LOVE草津」、日本温泉地域学会編「日本温泉地域遺産」。データは出典により違いがあります
<写真>草津温泉のシンボル湯畑やその周辺。源泉探訪が楽しめる旅館や日帰り温泉施設。熱の湯で開催されている湯もみショー。
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