第10回岡山県真庭市 湯原温泉郷
~オオサンショウウオとティラピア~
北海道大学大学院地球環境科学研究院准教授
温泉マイスター 藤井 賢彦
中国山地の山あいにある湯原温泉は、豊臣秀吉の「五大老」の一人である宇喜多秀家がその母(おふくの方)の湯治場を開設したことがその始まりと言われており、美作三湯の一つに数えられる。この温泉を語る上で外せないのが、露天風呂番付で西の横綱に位置づけられた巨大露天風呂「砂湯」である。「砂湯」と聞くと、まずは別府海浜砂湯のような砂に埋もれる様式を思い浮かべる方が多いと思うが、ここは自噴する温泉が底にある砂を巻き上げるので「砂湯」と呼ばれているという。
混浴露天風呂ということで、新米温泉マイスターでまだ混浴慣れしていない筆者はひとまずその近くに投宿し、「砂湯」にはなるべく人の少なそうな夜と早朝を選んで通った。滞在期間中ずっと雨が降っていて、露天だけにその影響をもろに受けたのか、温泉がとてもぬるく薄く感じられたのは残念であった。しかし、人が少なかった分、川沿いにある大露天風呂特有の解放感に浸ることはできた。泉質自体は宿の内湯の方がはるかに良く、内湯に入ることでようやく、温泉そのものの実力を窺い知ることができた。入ると肌がすべすべして(石鹸が要らないくらい)、温泉成分書を見なくてもアルカリ性単純温泉だと直ぐにわかる。公表されているpH (9.3)よりもさらにアルカリ性が高いのではないかと思うくらいで、心地良いことこの上なかった。
温泉郷の近隣にある湯原漁業協同組合では、温泉の豊富な湯量と熱を利用してティラピアの養殖を行い、「黒姫鯛」として近くの宿泊施設の食事等に提供している。ティラピアは北海道弟子屈町川湯温泉でも温泉熱を利用した養殖が行われており、「摩周鯛」として食用に供されており、美味である。あくまでも本来の浴用としての利用を損なわないことが前提だが、ティラピアや養殖に限らず、温泉地で地域資源である温泉熱を有効活用した地場産業を育成していくことは、産業部門における光熱費とCO2をはじめとする温室効果ガスの削減につながるだけでなく、観光業等の地場産業と連携して六次産業化していくことで、地域経済の活性化に直接貢献すると期待される。
湯原温泉卿の周辺はオオサンショウウオ(はんざき)の生息地としても知られ、近くにあるはんざきセンターでは、オオサンショウウオが多数飼育されており、その生態だけでなく、はんざきにまつわる文化や歴史も学ぶことができ、とても興味深い(昔は、人や牛馬を丸呑みする巨大はんざきがいたとかいないとか・・)。温泉と共に、日本の原風景の一つを見た思いがした。これからも、ヒトと温泉とはんざきが共存できる街であり続けて欲しいと強く願う。
参考文献
● 湯原温泉郷の公式サイト(http://www.yubara.com)
● 藤井 賢彦 (2018), 再生可能エネルギーと熱のカスケード(多段階)利用, 馬場 健司, 増原 直樹, 遠藤 愛子 (編著), 地熱資源をめぐる 水・エネルギー・食料ネクサス ―学際・超学際アプローチに向けて―, 近代科学社, 124-134, ISBN 978-4-7649-0578-8.
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写真1. (左)「砂湯」の全景。旭川沿い、湯原ダムの真下にある(入浴者がいて遠方からしか撮影できなかったため、遠景ご容赦)。 (右)「砂湯」のすぐ脇にあった看板。露天風呂に行くときは薄着なので、いつにも増してスリリング
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写真2. (左)ティラピアと(右)その養殖風景
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写真3. はんざき足湯。地域資源である温泉と、地域文化のアイコンであるはんざき(オオサンショウウオ)にどこまでもこだわる
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