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第33回 十勝岳周辺の温泉

執筆者北海道大学 大学院地球環境科学研究院
温泉マイスター  藤井 賢彦

十勝岳は北海道のど真ん中、日本の国立公園の中で最も広い大雪山国立公園の中にある活火山です。これまで何度も噴火を繰り返し、その度に周辺の住民を苦しめてきました。その一方で、周辺市町村は農業や観光業といった地場産業を通じてその火山活動の恩恵を受けてきました。例えば、美瑛(びえい)や富良野の日本離れした広大でなだらかな丘陵(写真1)や、火山灰起源の水はけの良い土壌で栽培される富良野のラベンダーは、いずれも十勝岳の火砕流の賜物です。十勝岳周辺に散在する温泉もそのひとつと言えましょう。ここでは十勝岳周辺の温泉(写真2)のうち、代表的なものを3つ紹介します。


写真1. 一面に広がる枝豆畑(上富良野町)。
広くなだらかな丘陵は後方の十勝岳の火砕流の賜物。


写真2. 十勝岳をとりまく温泉群(望岳台(美瑛町)にあった掲示板より)。


白金温泉
 1950年に掘削され、プラチナ(白金)の尊さになぞられてこのように命名されました。ナトリウム・カルシウム・マグネシウム―硫酸塩・塩化物泉で、pH値は 6.6程度です。無色透明の温泉は湧出後に空気に触れると、鉄分が酸化されて褐色になります(写真3)。近くを流れる美瑛川には「青い池」という人造池があります。この池は十勝岳の火山泥流を食い止める目的で設置された堰堤に川の水が溜まってできたものであり、その水の驚くべき青さ見たさに実に多くの観光客が訪れます(写真4)。火山灰由来のケイ酸アルミニウムが火山由来の酸性の河川水と反応して生成したアルミニウム系粒子に当たった光が散乱し、池の水が青く見えるとされていますが、いずれも十勝岳の産物です(因みに、名著「日本百名山」の十勝岳の章には、その昔、松浦 武四郎さんが美瑛川の水を飲もうとしたところを、地元のアイヌ人が「ピイェ」と叫んで留めたという記述があります。「ピイェ」はアイヌ語で「油」を意味し、それは十勝岳起源の硫黄を指したとのことです。その「ピイェ」が「美瑛」という町名の由来だそうです)。


写真3. 白金温泉。近隣でダムを造成した際に、写真右上にあるようなアンモナイトの化石が
ゴロゴロ出てきたそうで、この温泉のオブジェにもなっていました。


写真4. 白金温泉の近くにある「青い池」。


吹上温泉
 山間にあるカルシウム・ナトリウム―硫酸塩・酸化物泉で、pH 値が2.6程度の無色透明の酸性泉です(写真5)。完全混浴の野湯で、TVドラマ「北の国から」で田中邦衛さんと宮沢りえさんが入った温泉と言えば、ピンと来る人がいるかもしれません。源泉の温度は60℃程度あり、温度調整も難しいので、とんでもなく熱い時があります(それでも平然とした感じで入っているのは多分常連さんなのでしょう)。



写真5. 吹上温泉。北海道の野湯はワニ以上にヒグマの出没に対する警戒を余儀なくされる。


十勝岳温泉
 北海道で一番高地にある温泉 (標高1,280m)で、十勝岳の火口から3km弱のところにあります。まさに秘湯的なロケーションですが、秘湯と呼ぶには余りにも広く世間に知られている温泉です。源泉は2つあり、一つはpH 値が6.3程度の含鉄(II)―カルシウム・ナトリウム―硫酸塩温泉で、無色透明の温泉は湧出後に空気に触れると鉄分が酸化されて茶褐色になります(写真6)。もう一つは含鉄(II)―アルミニウム・カルシウム―硫酸塩温泉で、pH値は2.3程度の酸性泉です。同じ場所でも違う深度の帯水層から湧出する2つの温泉は特徴が大きく異なり、同じ浴室で違う泉質を楽しむことができます。


写真6. 十勝岳温泉。北海道で最も高地にある温泉 (標高1,280m)。
春夏の露天風呂は温泉の茶褐色と背景の木々の緑色のコントラストがとても美しい。
遠くに、十勝岳連峰に属する上ホロカメットク山を臨む。


まとめ
 十勝岳の直近数回の噴火はおおよそ30〜40年周期で起きていること、前回の噴火が1988~1989年であったことを踏まえると、次の噴火がいつ起きてもおかしくない状況にあるといえます。噴火の予兆が出れば当然、十勝岳周辺への立ち入りが規制される可能性があります。
 十勝岳周辺の温泉は火山活動を敏感に捉えるようです。例えば、吹上温泉では前回の十勝岳噴火の際にマグマ性熱水が混入し、30℃もの急激な泉温上昇がみられたそうです。温泉入浴を継続的に続けて、体を張って温泉の温度や成分を継続的に監視することが、火山の噴火予知にも役立つかもしれません。







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