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地球のはなし  別府温泉地球博物館 代表・館長 由佐悠紀

No.27
「雲南紀行 5 怒江を渡る」

 騰冲(トンチョン)から北東に、大理石の産地として有名な大理に向かった。このルートは、インドとアジアの2つの大陸地塊が衝突してできた地形の巨大な「しわ」、つまり山脈と河を横切って行く。道の標高は、高い所で2000メートル、低いところで500メートルぐらいだろう。

 ひときわ高い峠を越え、急崖をジグザグに切り開いた道を進むと、はるか眼下に怒江が見えた。一気に600メートルほど下り、川幅が狭まった所に架けられた橋を渡り、また、急崖を登る。

 この辺りの唯一の橋であるが、実際には、使用されていない橋がもう1つある。恵通橋(フイトンチアオ)というこの古い橋には、凄惨な戦いの歴史がある。昭和19年9月7日、ここを守備していた日本軍は、圧倒的な中国軍の前に玉砕したのである。

 この数日後には、騰冲でも同じようなことがあった。中国軍は騰冲市街を破壊するという焦土作戦を展開して、日本軍に抵抗したという。

 こうした事実を私はまったく知らないまま、出かけたのであった。そして、旅の途中で読んだガイドブックなどを通して、雲南とミャンマーの国境地帯で繰り広げられた戦いのことを知った。

 しかし、現地の人々は、一言もこの歴史には触れようとせず、温泉地を丁寧に案内してくれたのである。旅の目的が温泉調査であったにしても、訪問地の歴史や風土を調べる努力を怠ったことには、恥ずかしさを禁じえない。

  - 「大分合同新聞夕刊」  1994年7月 -



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別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものを順次ご紹介します。