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温泉マイスター・ハイキングレポート

「杉乃井地熱発電所と大分県における地熱利用」 

シニア・マイスター 甲斐 心也

 平成28年6月11日、別府温泉地球博物館主催の「地獄ハイキング 観海寺2コース」に参加した。
 当日は梅雨の晴れ間とはいえ、非常に湿度が高い日で、参加者は汗だくになりながら、長い下りのコースを完歩した。また、今回の見どころの一つに「杉乃井地熱発電所」があり、特別な計らいで発電機建屋内の見学ができ、より有意義なものとなった。


写真:階段式冷却器


 杉乃井地熱発電所は、わが国のホテル業界では初の実用化施設として、昭和55年11月に運転を開始した。当初は3000kw/hの発電量を誇り、ホテル内のすべての電力を賄うことが出来ていた。しかし、地下400mにある蒸気井戸の温度が、当初の200℃から徐々に下がり、現在は135℃程度となり、出力も1900kw/hに低下、ホテルの電力必要量の3割から5割程度となっているということだ。


写真:気水分離装置


 地熱発電は再生可能エネルギーであり、地球温暖化の原因となるCO2を排出しないクリーンなエネルギーであるといわれている。一方で、設備建築の好適地の多くが国立公園内であることや、蒸気中に含まれる火山性ガスの影響で、機器類が腐食し、耐久性が低いことが問題である。観海寺温泉の泉質は、硫黄分と塩分を含有する単純温泉で、この二つの成分は金属を腐食させるので、その対策が課題となる。ここでは、取り出した蒸気から湿気を取り除く気水分離装置があるとの説明を受けたが、「湿気のない蒸気」とはどんなものか理解が及ばなかった 。


写真:発電設備

 

写真:発電装置説明板

 また、発電に使った後の熱水は、ホテルに送られ温泉として使われるため、通常の地熱発電所で行われる還元井による熱水の再利用が出来ないことは、資源保護の観点からは一つの課題といえるのではないだろうか。



 さて、大分県九重町には、地熱発電所として国内最大出力の110,000kw/hを誇る九州電力八丁原地熱発電所がある。ここの特徴は、「二層流体輸送方式」といい、地下のマグマで熱せられた蒸気と熱水を同一配管で輸送し、発電機近くで「気水分離機」で分離し、蒸気だけを利用するというものだ。また、利用されない熱水の一部は、近くの筋湯や湯坪温泉に供給され、旅館・ホテルなどで温泉として活用されている。
 かつて週刊ポストが、筋湯温泉を「発電所の工業廃水を温泉と偽装」と取り上げ、大騒動となったことがあったが、これは温泉法でも認めらており、なんら問題はないものだ。そもそも、筋湯、宝泉寺、湯坪、壁湯、川底の各温泉は、成分の含有量が少ないさっぱりとした単純温泉で、この泉質が機器類への悪影響の少ない、地熱発電に好適の泉質であると言えるかもしれない。


写真:筋湯温泉 うたせ大浴場


 杉乃井ホテルからほど近い堀田温泉郷の日帰り温泉施設「五湯苑」では、小型バイナリー発電機が2014年4月から稼働している。「バイナリー発電」とは、比較的沸点の低い媒体を加熱し蒸発させて、その蒸気で発電する方式で、既存の温泉井の蒸気や熱水が利用できることから、近年注目を浴びている発電方式だ。
 6/18(土)に五湯苑での入湯をかねて設備を見学したが、毎時91kwの出力を得ており、180世帯分の年間消費電力を賄うことができるという。堀田温泉も硫黄成分を豊富に含む泉質で、温泉蒸気による発電ユニットの腐食を防ぐため、熱交換機によりエネルギーを取り出しているようだ。


写真:バイナリー発電装置


 別府温泉といえば名物料理として「地獄蒸し」が知られているが、これは古くからの地熱利用の一形態である。現在、大分県の再生可能エネルギーの自給率は全国1位だが、そのほとんどは前記の2発電所と九州電力大岳発電所(出力12,500kw/h)による。最も新しい地熱発電システムである湯けむり発電が、別府市鉄輪の「大分県農林水産センター 花き研究所」など県内数カ所で稼働している。これまで取り上げた方式に比べ、更に小型化が可能で、既存の温泉井がそのまま使えることが特徴である。
 今後、本稿で取り上げたバイナリー発電や湯けむり発電が普及すれば、更に自給率が向上するものと思われる。温泉資源の有効活用と低炭素社会の実現のために大いに期待したいものだ。



参考にした情報

1.

「2020年温室効果ガス25%削減のためのエココミュニティ化事業報告書」より 
「大分県の地熱発電・地熱利用(大分県九重町、別府市)」
http://ecocommunity.jpn.com/wp-content/uploads/2013/01/comm001_22.pdf

2.

株式会社日阪製作所ホームページ 導入事例ページ
http://www.hisaka.co.jp/case_studies/zoom.html

3.

九州電力株式会社ホームページ 八丁原・大岳発電所の紹介ページ
http://www.kyuden.co.jp/effort_geothermal_t_hattyoubaru.html




講評:竹村恵二(フィールド博物館 代表、京都大学 教授)
 よくまとまった勉強されたレポートです。ホームページや別の地点での現地見学の資料を入れるなどご自分での学習結果も引用され、充実した内容となっています。レポート課題題名(タイトル)と内容の整合性もきちんとしており、よいレポートになっています。最後のまとめを、全体の構成の中で位置づけて、記述するとよりよいレポートになると思います。
 今後も、具体的なテーマをしぼって、まとめや結論等を意識して、レポートを作成されることを期待しています。

 

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