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大分県の温泉(4)大分県温泉調査研究会会長
別府温泉地球博物館理事長 由 佐 悠 紀 注:「4-1.」に関して 4.大分県における近年の源泉分布と泉質分布4-1. 適応症による泉質の種類(10種類の泉質) 「大分県の温泉(2)」に記したように、公共の利用(浴用・飲用)を目的としている温泉では、温泉法第十八条によって、その特徴などを施設内の見やすい場所に掲示することが義務づけられており、その具体的な事項は、温泉法施行規則第十条に定められている。その一つが「浴用又は飲用の禁忌症」である。しかし、一般的に関心が高いのは、むしろ、医療的な効能すなわち「適応症」の方であろう。 適応症に取り上げられている泉質(10種):それぞれの内容は、上記ウェブサイトを参照。 4-2. 平成22年3月末現在における大分県の源泉分布 平成22年3月末現在、大分県では、18市町村の内、津久見市と豊後大野市を除く16市町村に温泉がある(図2)。総源泉数は4,790孔、1分間当たりの総採取量(自噴量と動力揚湯量の合計)は約30万リットルで、ともに全国第1位である(大分県環境白書平成22年版;環境省ホームページ)。なお、これらの内、園芸・暖房・湯の花製造・養魚・農業・観覧・地熱発電などに供されている源泉が273孔あり(内、68孔は飲用・浴用にも共用)、約7万リットル/分の温泉・地熱水がそれらに使用されている。
図2の源泉数は、地域的な特徴が見て取れるように、旧市町村を単位に計数されている。表6には、20孔以上の源泉が存在する区域を挙げた。先に紹介した1970年頃の分布との大きな違いは、大分市・庄内町・挾間町での源泉数の増加である。しかし、大多数の源泉が、火山活動の活発な、県の中央部(別府~湯布院~九重)に存在するという特徴は、不変である。
表6.20孔以上の源泉がある地域(旧市町村;平成22(2010)年3月末)と泉質
4-3. 陰イオンに着目した大分県の泉質の分布 先に挙げた適応症に関わる泉質は、大分県には、放射能泉を除く8種の温泉が存在する。基本的な泉質は、陰イオンによって決められる3種の塩類泉、および、それらの混合物である。成分濃度が薄い単純泉の陰イオンも、塩類泉のそれと同じであり、塩化物泉型・炭酸水素塩泉型・硫酸塩泉型およびそれらの混合型がある。ここでは、陰イオンに着目し、大分県における泉質分布を、市町村別に概観する。用いた資料は、「大分県鉱泉誌2006 第1集,第2集」を基本とし、不足するところは「大分県鉱泉誌1970」で補った。
表6および図3より、4つの泉質のすべてが存在するのは、源泉数が特に多く、新しい火山があり温泉活動の活発な、県の中央部(別府~湯布院~九重)および隣接する「庄内」であることが分かる。この地域から西方に少し離れた天ケ瀬町(日田市)の温泉も、泉温が高い。泉質の多くは単純温泉であるが、高温のものの塩化物イオン濃度は高く、塩化物泉または炭酸水素塩泉と混合した泉質を示す。表6・図3に硫酸塩泉の記述が無いのは、硫酸イオンが含有されていないのではなく、その当量%が20に達していないためである。また、この地域の南縁に位置する直入町・久住町は源泉数が多く、塩化物泉は存在しないが、高濃度の炭酸水素塩泉や硫酸塩泉が存在する。 4-4. いくつかの特異な濃度【県中央部】この地域は、鶴見岳-伽藍岳・由布岳・九重山という3つの活火山が存在する、火山活動の活発な地域である。そのため、火山ガスから生じた3つの塩類泉およびそれらが希釈された単純温泉が分布し、泉質の種類は多種多様である。その中で、3つの陰イオン濃度が最も高いものを次にあげる。
表7.県中央部温泉の高陰イオン濃度の例(単位:mg/kg)
塚原温泉の硫酸成分は、強酸性のため、硫酸イオンと硫酸水素イオンの2者から成るので、それぞれを挙げた。また、浴用の温泉水(火口の泉)のほかに、極めて珍しい強酸性(pH 1.1)の鉱泉水があるので、参考のために挙げた。 【大分市域】前節に述べたように、1970年代半ば以降に開発された掘削泉には、成分濃度が非常に高いものがある。その内、市の北東端にあたる坂ノ市地区において、深い掘削(900m)で得られた自噴井からの温泉の陰イオン濃度を表8に示す。同じ頃に温泉開発が進んだ、大分市の西部に隣接する挾間町(由布市)にも同様の塩類泉が存在する。また、表8には古くからの塚野鉱泉の泉質も挙げたが、両者には類似性が認められる。
表8.大分市坂ノ市・塚野の温泉の泉温・pH・陰イオン濃度(mg/kg)
【県北】ここでは、成分濃度が特に高い、山香町(杵築市)と国見町(国東市)の例を表9に挙げる。両者は、炭酸水素イオンと硫酸イオンの割合が、互に大きく異なる。国見町のものと類似の泉質は豊後高田市の真玉町・香々地町でも見られる。
表9.杵築市山香町・国東市国見町の泉温・pH・陰イオン濃度(mg/kg)
以上のように、現在のデータでは、大分県における各陰イオン濃度が最も高い温鉱泉は、塩化物イオンが「大分市坂ノ市の掘削泉」、炭酸水素イオンが「杵築市山香町の掘削泉」、硫酸イオン(硫酸水素イオンを含める)は「由布市湯布院町の塚原温泉の冷鉱泉」である。このうち、「坂ノ市」の塩化物イオン濃度「20.6g/kg」は、密度の測定値「1.0278g/cm3」を用いて「21.2g/L」と書換えられる。全海水の平均濃度は「19.4g/L」だから、海水より高濃度である。
(つづく) 「大分県環境保全協会会報 EPO 平成23年夏号(2011)」より |