博物館についてスケジュールカテゴリー別府温泉事典リンク集

大分県の温泉(1)

1.はじめに-温泉の定義-
2.大分県の温泉分布・源泉数・温度などの概要

大分県の温泉(2)

3.泉質について
3-1.鉱泉分析法指針による鉱泉の分類
3-2.物質濃度の表わし方
3-3.基本的な泉質の名付け方

大分県の温泉(3)

3-4.泉質の決め方の問題点

大分県の温泉(4)

大分県温泉調査研究会会長
別府温泉地球博物館理事長

由 佐 悠 紀

注:「4-1.」に関して
2014(平成26)年7月1日付けで、療養泉の定義が改訂された。それに伴い、公共の温泉施設に掲示される泉質の種類も、11種類から10種類となった。したがって、混乱を避けるため、本稿でも、原文の11種類を10種類に変更した。
新しい療養泉の定義は、「温泉分析法指針(平成26年改訂)」の第1-2表に掲げられている。

4.大分県における近年の源泉分布と泉質分布

4-1. 適応症による泉質の種類(10種類の泉質)

 「大分県の温泉(2)」に記したように、公共の利用(浴用・飲用)を目的としている温泉では、温泉法第十八条によって、その特徴などを施設内の見やすい場所に掲示することが義務づけられており、その具体的な事項は、温泉法施行規則第十条に定められている。その一つが「浴用又は飲用の禁忌症」である。しかし、一般的に関心が高いのは、むしろ、医療的な効能すなわち「適応症」の方であろう。
 よく言われる「10種の泉質」とは、「禁忌症」に関わる泉質ではなく、適応症に関わる3種の「塩類泉」と6種の「特殊成分を含む療養泉」に、成分濃度の薄い「単純泉」を加えたものを指す(下記)。ただし、この分類は、あくまでも、療養的観点からのものであることを注記しておきたい。 なお、禁忌症も含めて、詳しくは、大分県のホームページの「禁忌症及び入浴又は飲用上の注意の掲示等について」などのウェブサイトに紹介されている。

適応症に取り上げられている泉質(10種):それぞれの内容は、上記ウェブサイトを参照。
 単純温泉
 塩類泉(3種):塩化物泉炭酸水素塩泉硫酸塩泉
 特殊成分を含む療養泉(6種):二酸化炭素泉、含鉄泉、酸性泉、含よう素泉、硫黄泉、放射能泉

4-2. 平成22年3月末現在における大分県の源泉分布

 平成22年3月末現在、大分県では、18市町村の内、津久見市と豊後大野市を除く16市町村に温泉がある(図2)。総源泉数は4,790孔、1分間当たりの総採取量(自噴量と動力揚湯量の合計)は約30万リットルで、ともに全国第1位である(大分県環境白書平成22年版;環境省ホームページ)。なお、これらの内、園芸・暖房・湯の花製造・養魚・農業・観覧・地熱発電などに供されている源泉が273孔あり(内、68孔は飲用・浴用にも共用)、約7万リットル/分の温泉・地熱水がそれらに使用されている。
 大分県における源泉の分布は、1970年頃の状況が「大分県の温泉(1)」の図1に示されており、県の中央部(別府~湯布院~九重)に集中していた。その後、県下各地で温泉の開発が進み、それまでに温泉の無かった地域でも新しい温泉が得られた。その現状を概観するため、図2に飲用・浴用の源泉数の分布を示した。


図2 平成22(2010)年3月末における旧市町村毎の源泉数(飲用・浴用のみ).
ただし,大分市の6孔は塚野(廻栖野)の鉱泉,219孔は近年の掘削泉.
太い実線は合併後の市町村区分、細い実線は旧市町村区分.

 図2の源泉数は、地域的な特徴が見て取れるように、旧市町村を単位に計数されている。表6には、20孔以上の源泉が存在する区域を挙げた。先に紹介した1970年頃の分布との大きな違いは、大分市・庄内町・挾間町での源泉数の増加である。しかし、大多数の源泉が、火山活動の活発な、県の中央部(別府~湯布院~九重)に存在するという特徴は、不変である。

表6.20孔以上の源泉がある地域(旧市町村;平成22(2010)年3月末)と泉質

旧市町村名

源泉数

現市町村名

泉 質(特殊成分によるものを除く)

別府市

2508 

別府市

塩化物泉,炭酸水素塩泉,硫酸塩泉,単純温泉

湯布院町

930 

由布市

塩化物泉,炭酸水素塩泉,硫酸塩泉,単純温泉

九重町

326 

九重町

塩化物泉,炭酸水素塩泉,硫酸塩泉,単純温泉

大分市

*225 

大分市

塩化物泉,炭酸水素塩泉,単純温泉

天瀬町

123 

日田市

塩化物泉,炭酸水素塩泉,単純温泉

庄内町

76 

由布市

塩化物泉,炭酸水素塩泉,硫酸塩泉,単純温泉

直入町

66 

竹田市

炭酸水素塩泉,硫酸塩泉

玖珠町

61 

玖珠町

単純温泉

杵築市

47 

杵築市

塩化物泉,炭酸水素塩泉,単純温泉

久住町

38 

竹田市

炭酸水素塩泉,硫酸塩泉,単純温泉

挾間町

31 

由布市

塩化物泉,炭酸水素塩泉,単純温泉

耶馬溪町

30 

中津市

塩化物泉,炭酸水素塩泉,単純温泉

日田市

20 

日田市

炭酸水素塩泉, 単純温泉

  *:大分市の6孔は塚野(廻栖野)の鉱泉,219孔は近年の掘削泉.

4-3. 陰イオンに着目した大分県の泉質の分布

 先に挙げた適応症に関わる泉質は、大分県には、放射能泉を除く8種の温泉が存在する。基本的な泉質は、陰イオンによって決められる3種の塩類泉、および、それらの混合物である。成分濃度が薄い単純泉の陰イオンも、塩類泉のそれと同じであり、塩化物泉型・炭酸水素塩泉型・硫酸塩泉型およびそれらの混合型がある。ここでは、陰イオンに着目し、大分県における泉質分布を、市町村別に概観する。用いた資料は、「大分県鉱泉誌2006 第1集,第2集」を基本とし、不足するところは「大分県鉱泉誌1970」で補った。
 本稿における塩類泉は、「塩化物泉」・「炭酸水素塩泉」・「硫酸塩泉」の3つである。陰イオンの当量(バル)%が20以上の成分が複数ある場合には、鉱泉分析法指針では多い順に書き連ねるが、ここでは、適応症における泉質との兼ね合いから、該当する成分すべてを列挙することにする。たとえば、「塩化物・炭酸水素塩泉」は、「塩化物泉」および「炭酸水素塩泉」とする。したがって、本稿における泉質は、上の3種に単純泉を加えた4種である。
 表6の第4欄には、各地域(旧市町村)における泉質を掲げた。また、図3には、各地地域の泉質を4つの記号で表して示した。


図3 大分県の泉質分布;旧市町村毎の適応症に応じた泉質.


 表6および図3より、4つの泉質のすべてが存在するのは、源泉数が特に多く、新しい火山があり温泉活動の活発な、県の中央部(別府~湯布院~九重)および隣接する「庄内」であることが分かる。この地域から西方に少し離れた天ケ瀬町(日田市)の温泉も、泉温が高い。泉質の多くは単純温泉であるが、高温のものの塩化物イオン濃度は高く、塩化物泉または炭酸水素塩泉と混合した泉質を示す。表6・図3に硫酸塩泉の記述が無いのは、硫酸イオンが含有されていないのではなく、その当量%が20に達していないためである。また、この地域の南縁に位置する直入町・久住町は源泉数が多く、塩化物泉は存在しないが、高濃度の炭酸水素塩泉や硫酸塩泉が存在する。
 1970年代半ば頃から開発が進んだ大分市の温泉は、成分高度の高いものと、低いものの2つに分けられる。前者は塩化物泉・炭酸水素塩泉、後者は単純温泉(炭酸水素塩泉型)が多い。それらとは別に、市の西部(旧野津原町との境界部付近)には、飲用泉として名高い塚野鉱泉がある。その成分濃度は高く、塩化物泉・炭酸水素泉に分類される。また、炭酸ガスを伴っており、特殊成分の観点からは二酸化炭素泉(通称;炭酸泉)である。
 中生代から古生代の古い地質から成る県南地域は、源泉数が少なく低温で、泉質は単純泉または低濃度の炭酸水素塩泉である。
 県北地域は、その大部分が火山噴出物に覆われているが、中央部に比べると、やや古い時代の火山である。これを反映して、泉温は中央部より低温で、成分濃度は低く、単純温泉が多い。ただし、近年の深い掘削で得られた温泉は高濃度で、おおむね塩化物泉や炭酸水素塩泉の泉質を示す。また、国東半島の北端部分には、高濃度の硫酸塩泉が見られる。
以上が、大分県における温泉の泉質分布の概要であるが、表6・図3のような表現では表せない特異な泉質が存在する。次節には、特に高濃度の例をいくつか記す。

4-4. いくつかの特異な濃度

【県中央部】

 この地域は、鶴見岳-伽藍岳・由布岳・九重山という3つの活火山が存在する、火山活動の活発な地域である。そのため、火山ガスから生じた3つの塩類泉およびそれらが希釈された単純温泉が分布し、泉質の種類は多種多様である。その中で、3つの陰イオン濃度が最も高いものを次にあげる。

表7.県中央部温泉の高陰イオン濃度の例(単位:mg/kg)

塩化物イオン濃度

4080  

九重町、八丁原発電所の熱水

炭酸水素イオン濃度

4460  

直入町長湯温泉

硫酸イオン濃度
硫酸水素イオン濃度

1827.5
553.0

湯布院町塚原温泉(火口の泉)
pH 2.1

硫酸イオン濃度
硫酸水素イオン濃度

2450.7
6608.9

湯布院町塚原温泉(冷鉱泉)
pH 1.1

 塚原温泉の硫酸成分は、強酸性のため、硫酸イオンと硫酸水素イオンの2者から成るので、それぞれを挙げた。また、浴用の温泉水(火口の泉)のほかに、極めて珍しい強酸性(pH 1.1)の鉱泉水があるので、参考のために挙げた。
 別府温泉には、表7に挙げた成分を多量に含有する温泉が多数存在するが、その濃度は、表の例より低い。

【大分市域】

 前節に述べたように、1970年代半ば以降に開発された掘削泉には、成分濃度が非常に高いものがある。その内、市の北東端にあたる坂ノ市地区において、深い掘削(900m)で得られた自噴井からの温泉の陰イオン濃度を表8に示す。同じ頃に温泉開発が進んだ、大分市の西部に隣接する挾間町(由布市)にも同様の塩類泉が存在する。また、表8には古くからの塚野鉱泉の泉質も挙げたが、両者には類似性が認められる。

表8.大分市坂ノ市・塚野の温泉の泉温・pH・陰イオン濃度(mg/kg)

泉温(℃)

pH

塩化物イオン

炭酸水素イオン

硫酸イオン

坂ノ市

42.4 

6.7

20600 

4750  

塚野鉱泉

15.7 

6.2

4090 

3110  



【県北】

 ここでは、成分濃度が特に高い、山香町(杵築市)と国見町(国東市)の例を表9に挙げる。両者は、炭酸水素イオンと硫酸イオンの割合が、互に大きく異なる。国見町のものと類似の泉質は豊後高田市の真玉町・香々地町でも見られる。

表9.杵築市山香町・国東市国見町の泉温・pH・陰イオン濃度(mg/kg)

泉温(℃)

pH

塩化物イオン

炭酸水素イオン

硫酸イオン

山香町

31.8 

6.4

16332 

6755  

2.3 

国見町

27.6 

7.2

17030 

781.8

2275  

 以上のように、現在のデータでは、大分県における各陰イオン濃度が最も高い温鉱泉は、塩化物イオンが「大分市坂ノ市の掘削泉」、炭酸水素イオンが「杵築市山香町の掘削泉」、硫酸イオン(硫酸水素イオンを含める)は「由布市湯布院町の塚原温泉の冷鉱泉」である。このうち、「坂ノ市」の塩化物イオン濃度「20.6g/kg」は、密度の測定値「1.0278g/cm3」を用いて「21.2g/L」と書換えられる。全海水の平均濃度は「19.4g/L」だから、海水より高濃度である。

参考文献
  • 大分県厚生部(1970):「大分県鉱泉誌1970」
  • 大分県温泉調査研究会(2006):「大分県鉱泉誌2006 第1集,第2集」
  • 由佐悠紀(1988):くじゅう地域の温泉,阿蘇くじゅう国立公園くじゅう地域学術調査報告書(大分県),21-24.
  • 大沢信二・北岡豪一・由佐悠紀(1994):大分県内温泉の泉質分類と泉質分布図の作成,大分県温泉調査研究会報告,45,25-37.

(つづく)

「大分県環境保全協会会報 EPO 平成23年夏号(2011)」より

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