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4.大分県における近年の源泉分布と泉質分布 | |
大分県の温泉(6)大分県温泉調査研究会会長
別府温泉地球博物館理事長 由 佐 悠 紀 5-2.水源-岩漿水は存在するか- 1846年、ドイツの化学者ブンゼンがアイスランドの火山・温泉を調査したのが、近代的な温泉研究の嚆矢とされる。それ以来、温泉の水そのものの起源の解明は、温泉研究の中心的課題であり、当初から2つの説が提出され、議論が続いていた。すなわち、降水起源と岩漿水起源である。 【化学成分による方法】まず、溶存する化学成分の種類や組成から岩漿水の存在を推定しようとした。しかし、ナトリウムをはじめとする金属成分は、岩石との間で交換反応を起すから、岩漿水が存在したとしても、化学組成は変化しているので、判定指標にはなり得ない。陰イオンの炭酸水素イオン・硫酸イオンも、岩石との間で反応を起すので、無力であった。唯一、塩化物イオン(塩素イオン)は反応性が無い(保存性がある、ともいう)ので、指標になりうるかと思われたが、海水の混入などは判定できても、水そのものの判別の決め手にはならなかった。すなわち、化学成分による指標は見つからなかったのである。 【温泉水の密度による方法】 化学的な方法とは別に、物理的な方法による判定も試みられた。その方法とは、水の重さ(密度)による判定である。水には「普通の水」と「重い水」がある。後者は「重水」と呼ばれ、これとの対比で、前者は「軽水」と呼ばれることがある。自然界の水のほとんどは「軽水」であるが、「重水」もごくわずかに含まれている。その含有率が、天水と岩漿水では異なるかもしれないと期待されたのである。 【水素と酸素の安定同位体による方法】(安定同位体とは) 原子核は陽子と中性子から出来ている。両者の質量は同じだが、陽子はプラス電気を帯びているのに対し、中性子は電気を帯びていない。各原子に付いている原子番号が陽子の数であり、これによって化学的性質が決まる。他方、原子核の質量は陽子数と中性子数の和で決まるので、その値を質量数という。そして、原子番号が同じで質量数が異なるものを、互いに同位体と呼ぶ(別名:同位元素・アイソトープ)。このうち、放射性のものを放射性同位体、そうでないものを安定同位体という。 (水素と酸素の同位体) 水分子を構成する水素の原子番号は1であるが(原子核の陽子が1個)、中性子が付いていないもの(質量数1)、中性子が1個ついているもの(質量数2)、および、2個ついているもの(質量数3)と、水素には3種の同位体がある。
表11.水素の同位体
表12.酸素の安定同位体
(質量分析計) 先に述べたように、同位体は化学的な方法では分別できないが、質量数が異なることを利用して、分別することができる。そのための機器を「質量分析計」・「マススペクトロメーター」と言う。測定原理は、「帯電した粒子が磁場中を通るとき、進行方向に直交する力を受けるため(フレミングの左手の法則)行路が曲げられるが、軽い粒子ほど大きく曲がる(ニュートンの運動の第2法則)」という現象によっている。 (別府温泉での測定例) 大分県の温泉についても、温泉水の水素と酸素の安定同位体組成が測定された。水素については軽水素と重水素の比(D/H)が、酸素については質量数16のものと18のものの比(18O/16O)が測定される。しかし、そのままの値は小さすぎるため、特殊な表現が用いられるが、ここでは両者を対比した図だけを紹介する。安定同位体がどのようなものであるかを、感じ取っていただければ幸である。
なお、先に述べた「さまざまな効果」とは、次のようなものである。
(つづく) 「大分県環境保全協会会報 EPO 平成24年夏号(2012)」より |