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別府温泉辞典

あ か さ た な は ま や ら わ

温泉の適応症及び禁忌症について

出典:(社)日本温泉協会ホームページ

 わが国では、「湯治」というかたちで、温泉が病気やケガを治すために利用されてきました。温泉そのものや温泉地が身体に及ぼす効果については、前回まとめた通りですが、どんな症状にも温泉が効くということはありません。また、温泉でなければならないということもありません。
 温泉を利用して病気やケガの症状などを治していくことは「湯治」と呼ばれてきましたが、医学的な見地では「温泉療養」と呼んでいます。温泉療養には、実施してもよい病気や症状と、実施してはいけない病気や症状があります。
 したがって、自分の病気や症状が温泉療養に適しているかどうか、また、適しているのであればどのような方法で入浴や飲泉をすればよいのかなどをあらかじめ認識しておく必要があります。
 温泉療養をおこなってよい病気や症状のことを「適応症」といいます。これは、主に慢性の病気や症状が該当します。
 一方、温泉療養をしてはいけない病気や症状のことを「禁忌症」といいます。これは、急性炎症性疾患や急性感染症などが対象になっており、たとえば、へんとう腺炎、肺炎、流感、赤痢、チフスなどが該当します。抗生物質を使用する病気や症状は殆ど温泉療養に適さないと考えられます。このほかに、癌や肉腫、重症の糖尿病、白血病、妊娠初期と末期なども禁忌症に当たります。
 このように、温泉療養をしてはいけない病気や症状も少なくありません。いずれにしても、温泉療養を行う際は自己診断だけではなく、医師の指導を受けることが望ましいと思われます。特に、温泉の知識を持った「温泉療法医」に相談されることをお勧めいたします。

以下温泉療法について、浴用と飲用に分けて一般的な注意事項を簡単にまとめます。

【浴用上の注意事項】
温泉療養を始める場合は、最初の数日は入浴回数を1日あたり1回位とするのがよいでしょう。その後は1日2~3回までとします。
温泉療養のための必要期間は、おおむね2~3週間が適当です。
温泉療養開始後3~7日前後に、「湯あたり」、「湯さわり」などの浴用反応が現れることがあります。
この間は、入浴回数を減らすか中止し、湯あたり症状の回復を待ってから入浴を再開して下さい。
強酸性泉や硫化水素泉では、入浴後皮膚に「湯ただれ」ができやすいので、皮膚の敏感な人は注意が必要です。
入浴の方法
  入浴時間は泉温によって異なりますが、初め3~10分程度で、なれるに従って延長していきます。
  運動浴を除き、入浴中は安静を守ることが大切です。
  入浴後、身体についた温泉の有効成分を洗い流さないようにし、皮膚から吸収されるように自然乾燥させることが望ましいのです。
 (ただし、循環式浴槽の温泉の場合は上がり湯をかけて流して下さい)
  入浴後は湯冷めに注意して、必ず一定時間の安静を保ってください。
  高血圧や動脈硬化症、心臓病については、原則として高温浴(42℃以上)は避けてください。
  熱い温泉に急に入ると脳貧血を起こす場合があります。入浴前に頭部や身体にかぶり湯やかけ湯をしてから浴槽に入ってください。
  食事の直前直後の入浴は避けましょう。また、飲酒しての入浴は特に危険です。


【飲用上の注意事項】
飲用の許可のあることを必ず確認し、できる限り温泉療法医の指導を受けましょう。
飲用には温泉湧出口の新鮮なものを用い、1回量は一般にコップで一杯程度。1日の量はおおむね200~1,000ミリ㍑までとします。ただし、酸性泉やナトリウム塩化物泉などは、泉質濃度によって減量や希釈します。
一般に飲泉は食前30分~1時間前または空腹時がよく、夕食後から就寝前はなるべく避けましょう。
鉄泉、放射能泉、ヒ素、沃素、臭素を含有する温泉は、必ず飲用の許可を確認すること。また、これらの飲用直後には、お茶、コーヒーは飲まないようにしましょう。

 なお、以下に一般的な適応症と禁忌症、ならびに泉質別の適応症と禁忌症を掲載しますので、参考にしてください。

別表1 温泉の一般的禁忌症(浴用)

【環境省自然保護局長通知(S57.5.25)の(別紙)に掲げる「温泉の禁忌症及び入浴又は飲用上の注意決定基準」第1項の別表1】

急性疾患、(とくに熱のある場合)、活動性の結核、悪性腫瘍、重い心臓病、呼吸不全、腎不全、出血性の疾患、高度の貧血、その他一般に病勢進行中の疾患、妊娠中(とくに初期と末期)



別表2 泉質別禁忌症

【環境省自然保護局長通知(S57.5.25)の(別紙)に掲げる「温泉の禁忌症及び入浴又は飲用上の注意決定基準」第1項の別表2】

泉 質 浴  用 飲  用
塩類泉 塩化物泉   腎臓病、高血圧症、一般むくみがあるもの、甲状機能亢進症のときはヨウ素を含有する温泉を禁忌とする。
炭酸水素塩泉   ナトリウム-炭酸水素塩泉は塩化物泉に準ずる。
硫酸塩泉   下痢のとき、ナトリウム-硫酸塩泉は塩化物泉に準ずる
(鉄-硫酸塩泉及びアルミニウム-硫酸塩泉を除く)
特殊成分を含む療養泉 二酸化炭素泉   下痢のとき
硫黄泉 皮膚、粘膜の過敏な人、とくに光線過敏症の人(硫化水素型) 下痢のとき
高齢者の皮膚乾燥症
酸性泉 硫黄泉に準ずる  

別表1 療養泉の一般的適応症(浴用)

【環境省自然保護局長通知(S57.5.25)の(別紙2)に掲げる「温泉の適応症決定基準」の別表1】

神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、病後回復期、疲労回復、健康増進




別表2 泉質別適応症

【環境省自然保護局長通知(S57.5.25)の(別紙2)に掲げる「温泉の適応症決定基準」の別表2】

泉 質 浴  用 飲  用
塩類泉 塩化物泉 きりきず、やけど、慢性皮膚病、虚弱児童、慢性婦人病 慢性消化器病、慢性便秘
炭酸水素塩泉 きりきず、やけど、慢性皮膚病 慢性消化器病、糖尿病、痛風、肝臓病
硫酸塩泉 動脈硬化症、きりきず、やけど、慢性皮膚病 慢性胆嚢炎、胆石症、慢性便秘、肥満症、糖尿病、痛風
(鉄-硫酸塩泉及びアルミニウム-硫酸塩泉を除く)
特殊成分を含む療養泉 二酸化炭素泉 高血圧症、動脈硬化症、きりきず、やけど 慢性消化器病、慢性便秘
含鉄泉 月経障害 貧血
含銅-鉄泉 含鉄泉に準ずる 含鉄泉に準ずる
硫黄泉 慢性皮膚病、慢性婦人病、きりきず、糖尿病 糖尿病、痛風、便秘
(硫化水素型)高血圧症、動脈硬化症、その他は上記に準ずる 
酸性泉 慢性皮膚病 慢性消化器病
含アルミニウム泉 酸性泉に準ずる 酸性泉に準ずる
放射能線 通風、動脈硬化症、高血圧症、慢性胆嚢炎、胆石症、慢性皮膚病、慢性婦人病 痛風、慢性消化器病、慢性胆嚢炎、胆石症、神経痛、筋肉痛、関節痛
執筆者宮崎博文)