湯けむり
ゆけむり
別府国際観光港から見た鉄輪温泉の湯けむり群
(2012年6月:曇天)
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別府温泉の象徴として親しまれている湯けむりの正体は、温泉から放出された水蒸気が、空中で凝結して、微細な霧状の水滴になったものです。しかし、湯けむりは別府温泉のどこにでもあるわけではありません。
別府では、道路の側溝を流れる温泉水から、湯気が立ち昇っている光景が良くみられます。この湯気も水蒸気が凝結したものですが、別府では、それらを湯けむりと呼ぶことはめったにありません。地面近くをただよい、ほどなく消えてしまうからなのでしょう。湯けむりとは、まさに真っ白い湯のけむりが、空中高く立ち昇り、かなり遠方からも明瞭に見えるときに許される呼称のようです。
湯けむりの正体である「微細な霧状の水滴」は、時間が過ぎると蒸発して水蒸気に戻り、見えなくなります。つまり、湯けむりには寿命があります。ですから、湯けむりが存在するためには、霧状水滴の集団が、ある程度の時間、保持されなければなりません。
そのためには、密度の高い霧状水滴が大量に発生しなければなりませんが、それが可能な源泉は、高温の水蒸気を高速で噴出する噴気と沸騰泉です。実際、別府温泉の湯けむりの全ては噴気と沸騰泉からのもので、それらは別府八湯のうち、「明礬温泉」・「鉄輪温泉」・「堀田温泉」・「観海寺温泉」に集中しています。(噴気・沸騰泉の分布→別府温泉参照)
典型的な火山性温泉である別府温泉の沸騰泉と噴気には、自然湧出のものと掘削されたものがあり、共に地獄と呼ばれてきました。自然の地獄の多くは消滅しましたが、明礬温泉などにその片鱗が残っています。しかし、自然の湯けむりは、地表付近を漂っていることが多く、遠方からはあまり良く見えません。高く立ちのぼる優勢な湯けむりは、そのほとんど全てが掘削泉からのものです。(掘削泉→温泉の種類参照)
鶴見岳と伽藍岳の山頂附近には、自然の優勢な噴気孔や噴気地があり、それらからの湯けむりは別府市街から見えることがあります。(噴気孔・噴気地→噴気参照)
湯けむりの見え方は、噴出する水蒸気の量に加えて、空中での凝結量と霧状水滴の蒸発の早さに左右されます。凝結量は、気温が低いほど、また、湿度が高いほど、多くなります。そのようなときには、水滴の蒸発速度が遅いので、湯けむりは消えにくくなっています。実際、天候は曇りの日に、時間は朝夕に、季節は冬に、よく見えます。
風が強いと、湯けむりは、たなびいたり、ちぎれたりして、見えにくくなります。霧や靄がかかると、湯けむりと霧・靄との区別がつきにくくなりますし、視界も悪くなるため、見えにくくなります。
別府の湯けむりは、2001年にNHKが公募した「21世紀に残したい日本の風景」として、富士山についで第2位に選ばれました。
代表的な鉄輪温泉の湯けむり群は、「別府湯けむりライブカメラ」を検索すれば、実況映像を観ることができます。
それらの湯けむりは、全てが掘削によって得られたもの。すなわち、別府の湯けむり景観は、市民が自然の地熱活動に積極的に関わって創り出した文化財と言えます。
【鉄輪地区と明礬地区の湯けむり景観は、平成24年9月19日付けで、「別府の湯けむり・温泉地景観」として、国の重要文化的景観に選定されました。】
(
由佐悠紀)