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別府温泉辞典

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地殻

地殻熱流

地殻熱流量

ちかく

 

ちかくねつりゅう

 

ちかくねつりゅうりょう



地殻

ちかく

 半径6371kmの球体と見なされる固体地球(注1)は、中心から半径3480kmまでの中心部()、その外側の半径6355kmまでの範囲(マントル:厚さ2875km)、そして、表面を覆う表皮(地殻)の3つの層に分けられます。私たちが、その表面に生きている地殻の平均的な厚さは16kmと、地球の大きさから見れば、非常に薄いものです。なお、マントルと地殻の境界は、地震波の速度が不連続的に変わる深さを連ねた面として定義されます(注2)。

 (注1)大気や海洋などの流体圏を除いた、地表面より下の部分を固体地球と言います。その形は、ニュートン(1642-1727)が推定したように、北極-南極を軸とした扁平な回転楕円体で、赤道方向が膨らんでいます。しかし、北極-南極間の半径(極半径)と赤道面の半径(赤道半径)の差はわずかなので(約21km)、多くの場合、「球」と見なして差し支えありません。
 固体地球の内部がいくつかの層に分かれていることは、かつて地球が溶融状態にあったことを意味しています。その理由については、太陽系の惑星物質が集積して原始地球が形成された時、惑星物質の位置エネルギー・運動エネルギーが熱エネルギーに転換したため、原始地球は高温となり溶融したとする見解が有力です。この溶融状態は、マグマオーシャンと表現されています。


 (注2)地殻とマントルの間の地震波不連続面は、発見したクロアチア(旧ユーゴースラビア)の地震研究者にちなんで、モホロビチッチ不連続面と名付けられています。日本では、略して、モホ不連続面あるいはモホ面と呼ばれることが多いようです。たとえば、地震の縦波(P波)の速度は、モホ面の直上では7 km/s 以下なのに対し、モホ面の直下では8 km/s を超えます。


地殻は、標高の高い陸地の部分(大陸地殻)と低い海洋の部分(海洋地殻)に大別されますが、この区別は、単に土地の高低という地形的なものだけではありません。付表は、両地殻の違いを対比したものです(数値はおおよその値)。

項目 大陸地殻 海洋地殻
面積の割合 29% 71%
高さ 平均標高:840 m 平均水深:3800 m
厚さ 30~60 km 6 km
岩石類 花崗岩質 玄武岩
生成年代 古い(40億年以上のものがある) 新しい(高々2億年程度)


 海洋地殻が新しいのは、それが常に入れ替わっているからです。すなわち、中央海嶺と呼ばれる場所で新しい地殻(玄武岩質)が生じ、それが水平方向に移動して、大陸の縁辺部に到達すると、大陸の下部に沈み込んで消滅するからです。そのような地帯は沈み込み帯と呼ばれます。以上の事実や見解は、1960年代頃から発展したプレートテクトニクスの基礎となっています。日本列島は、沈み込み帯に当ります。付図は、地殻の断面モデルです。


地殻の断面モデル:→ は海洋地殻の移動方向を表す。
大陸地殻の点線より下の部分は、玄武岩質・安山岩質・部分溶融などの説があります。

執筆者由佐悠紀)

地殻熱流

ちかくねつりゅう

 地球内部には、地球創生時に発生した熱(注1を参照)、および、放射性元素(注3)の崩壊に伴って発生し続ける熱が蓄えられています。これらの膨大な量の熱は、温度と熱に関する原理(熱は高温部から低温部に向かって流れる)にしたがって、散逸して行きます。
  地球内部における熱流には、次の2つの過程があります;
   (1) 地層を通しての「熱伝導」
   (2) 物質の移動(対流)による「熱流」
 以上の2つのうち、「(1):熱伝導」によるものを「地殻熱流」と言います。「(2)の物質の移動」は、大陸移動・造山活動・地震・火山・温泉などのさまざまな現象を引き起こします。
典型的な沈み込み帯である日本列島に展開している火山・温泉活動は、まさに、地球規模のダイナミックな動きの中で生じています。

 (注3)主要な放射性元素は、ウラニウム(238U,235U)・トリウム(232Th)・放射性カリウム(40K)などで、主に地殻中(とくに花崗岩質の大陸地殻)に存在します。マントル中の存在量は少量とされています。
 なお、大気の組成で、窒素・酸素に次いで多いアルゴン(Ar)は、上の40Kが崩壊して生じたものです。

執筆者由佐悠紀)

地殻熱流量

ちかくねつりゅうりょう

 地殻熱流量は、地球内部の熱状態やプレートテクトニクスなどを研究するのに欠かせない基本的な観測値で、「地温勾配」と「地層の熱伝導率」を掛けた数値で与えられます。
 全地球の平均値は「1.5×10-6 cal /cm2/s」程度とされています。このように、1cm2の断面を通して1秒間に流れる熱量は小さいので、「10-6 cal /cm2/s」を地殻熱流量に関する特別な単位として「熱流量単位」と呼び、「HFU」(Heat Flow Unitの略)と表してきました。
 しかし現在は、国際単位系(SI)を使うことが推奨され、「mW/m2」の単位を用いるようになっています(正式には「mW・m-2」)。なお、1 HFUは次のようになります。
 「1 HFU = 41.84×10-3 W/m2 または41.84 mW/m2(mWはミリワット)」
 この単位で表すと、全地球の平均的な地殻熱流量は約63 mW/m2 、地球全体の地殻熱流総量は約3.2×1013 W(32兆ワット)となります。


地殻熱流総量の計算
  地球の平均半径 R = 6371(km)= 6.371×106(m)
  地球の表面積 S = 4πR2 = 5.1×1014 (m2
   「地殻熱流総量」=「平均地殻熱流量」×「地球の表面積」
              = 63×10-3 × 5.1×1014 = 3.2×1013(W)



日本列島と周辺域の地殻熱流量
 日本列島と周辺域は、世界でも最も密に地殻熱流量が測定されている地域で、その分布には次のような特徴があります。〔主に、山野ら(1997)による:分布図が地質ニュース517号の口絵に掲載されています。(ダウンロード可能)〕

東北日本
  火山フロントより太平洋側で低い(40~80 mW/m2)。
  火山フロントより日本海側の陸地および日本海で高い(80 mW/m2以上)。

西南日本
  太平洋側の南海トラフで高い(100 mW/m2以上)。
  瀬戸内海周辺で相対的に低い(おおむね80 mW/m2以下)。
  九州から南西諸島では、火山フロントより西側で高い(80 mW/m2以上)。

その他
 伊豆・小笠原諸島に沿って高い(100 mW/m2以上)。
 千島列島に沿って高い(100 mW/m2以上)。
 対馬海峡から朝鮮半島で低い(80 mW/m2以下)。


別府の地殻熱流量
 別府温泉の地殻熱流量データを下表に掲げます。別府の地温ひいては地殻熱流量は、地下での温泉水の流動の影響を受けています。〔(森山・川西(1965)の原データをmW/m2単位に換算〕

場  所 熱流量:mW/m2
富士見通り6丁目付近 46
南石垣の境川橋付近 140
鉄輪の地獄地帯公園付近 420


単位系について
 もともとの熱流量に使われている単位系は「CGS単位系」と呼ばれるもので、長さはセンチメートル(cm)、質量はグラム(g)、時間は秒(s)を用いています。学校では、長い間、この単位系が使われてきましたが、現在、自然科学では、メートル(m)・キログラム(kg)・秒(s)を基本とした国際単位系(略称:SI)が推奨されています。(国際単位系の詳細は、外部リンク「ウィキペディア」などを参照して下さい。)
 熱量のカロリー(cal)は、日常生活(特に食生活)では、おなじみの単位[キロカロリー(kcal)として]ですが、自然科学では「ジュール(J)」が使われています。
 「1 cal = 4.184 J」、「1 W = 1 J/s」です。「J/s」は「1秒間当りのエネルギー」を意味します。ただし、SIでは「/」は推奨されておらず、たとえば、「J/s」や「W/m2」は、それぞれ「J・s-1」および「W・m-2」と書くように定められています。しかし、ここでは、一般に広く使われている表記法を使いました。

執筆者由佐悠紀)
参考文献
森山善蔵・川西 博(1965):別府市内および湯布院町の温泉孔における岩芯調査報告(第2報),大分県温泉調査研究会報告,16,64-74.
山野 誠・木下正高・山形尚司(1997):日本列島周辺海域の地殻熱流量分布,地質ニュース,517,12-19.