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![]() 図1 フレミングの左手の法則 |
例として、温泉水の水素の同位体比(軽水素Hに対する重水素Dの比:D/H)を測定する場合を取り上げ、その概要を下の枠内に記します。
水素同位体測定の例
①水試料から、すべての水素同位体を、水分子として取り出す(注1)。それらはH2・HD・D2の3種で、三者の質量の比「H2:HD:D2」は「2:3:4」である。〔現実には、Dの存在比は非常に小さいのでD2は無視でき、H2とHDの2種とみなされる。〕
②水素分子をプラス電気に帯電させる(イオン化:注2)。それぞれを[H2]+・[HD]+・[D2]+と表す。
③帯電した水素分子の集団を、磁場に磁力線を横切るように、入射する。
④帯電した各水素分子は、進行方向に直交する力を受けるので(フレミングの左手の法則)、行路が曲がる。曲がり方は、[H2]+・[HD]+・[D2]+の順に大きい(運動の第2法則)。
⑤行路の終端に捕捉装置(コレクター:注3)を設置しておき、[H2]+・[HD]+・[D2]+を捕捉して、それぞれがもたらす電気量を測定する。測定は、対象試料と標準試料(同位体比が既知)を交互に切り替えて行う。〔電気量は、[H2]+が圧倒的に多く、[HD]+はほんの少量、[D2]+はほとんどゼロである。〕
⑥各試料につき、[H2]+・[HD]+・[D2]+それぞれがもたらした電気量を比較・分析して同位体比(D/H)を求め、標準試料の同位体比で規格化して、下記のδ(デルター)値として表現する。単位は千分率(‰,パーミル)である。
δD =〔(D/H)A /(D/H)SMOW -1〕×1000
ここに、(D/H)Aは対象試料の同位体比、(D/H)SMOWは標準試料(標準平均海水)の同位対比である。
【備考】以上の工程のうち、帯電分子を磁場に入射するところから捕捉するところまでは、真空状態で行う。
注1と注2について:
この方法では、測定対象の同位体(水素・酸素・炭素・硫黄など)を気体にし、かつ、帯電させなければならない。その詳細および測定法の実際については、いろいろな工夫がなされている。研究論文・外部サイト・質量分析計の操作マニュアルなどを参照されたい。
注3:
たとえば、ファラデーカップ(帯電した粒子を捕捉するための金属製のカップ)。電流計を連結しておけば、流入する電気量を測定できる。(外部サイトなど参照)

【追記】
かつて特殊な分析法とされた質量分析は、今や、多くの分野で普通に行われるようになりました。とくに、地球環境の変遷をはじめとする環境問題の調査研究では、水の水素・酸素同位体比のデータは不可欠です。
また、水素・酸素同位体比研究により、温泉水のほとんどは降水起源であることが明らかになりました。この結論は、温泉資源が時間的には有限であることを意味しています。これにより、温泉の開発利用に当って、流域における降水の消費のされ方、すなわち水収支評価の重要性が強く認識されることとなりました。