湯の花:別府の湯の花
ゆのはな:べっぷのゆのはな
温泉水の成分が析出して生じた温泉沈殿物(温泉華)は、「湯の花」とも呼ばれます。「湯の華」とも書きます。色々な種類のものがありますから、別項「温泉沈殿物」を参照してください。
温泉地で土産物として売られている「湯の花」の多くは、温泉水に溶存している硫化水素が酸化されて沈殿した硫黄華を主成分としています。しかし、別府の明礬温泉(別府八湯を参照)の「湯の花」は、全く別のものです。
【生産工程】
別府の湯の花は、湯の花小屋の中で作られます。その標準的な工程を、恒松(2007)に基づいて記します。全てが、江戸時代から長年にわたって培われてきた経験に基づく手作業で行われています。この製法は、平成18年3月、「別府明礬温泉の湯の花製造技術」の名称で、国から重要無形民俗文化財に指定されました。明礬温泉では、湯の花小屋の内部を見学することができます。
明礬温泉の湯の花小屋
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(1) |
床作り:平坦にならした地面に割栗石を並べ、床の基礎を作る。その際、硫化水素を含む蒸気(硫気)が床全体に行きわたるように、溝状の硫気通路網を作る。基礎の上に藁を敷き、その上にまんべんなく土を敷き詰める。 |
(2) |
小屋作り:床全体を覆うように、木と竹を組み合わせ、縄で固定して切妻風の骨組みをつくり、藁と萱を葺く。 |
(3) |
青粘土入れ:原料の青粘土(ぎち)を運び込み、床の上に5cm~10cmの厚さに均等に広げ、硫気通路網を壊さないように、また、青粘土の空隙をつぶしてしまわないように注意しながら、表面をたたき固める。 |
(4) |
硫気の取り入れ:床作りの際に作っておいた取入口から硫気を導入し、床全体に行きわたるように硫気量を調節して、湯の花の生成・成長を待つ。 |
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湯の花小屋の断面図 |
付図は、湯の花小屋の模式的断面図です
[瀬野(1963)による]。湯の花の成長は、青粘土の成分や硫気の量、小屋内の温度や湿度などに左右されます。 |
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(5) |
湯の花の採取:湯の花の結晶が10mm~50mmに成長したら、コテで根元から刈り取る。この後、1ヶ月に1回程度の割合で、刈り取る。 |
(6) |
湯の花採取を4~6回程度くり返しているうちに、青粘土の色が徐々に白くなり、湯の花の成長が遅くなって、採取できなくなる。白色化した粘土は廃棄する。(写真には、小屋の周辺に、廃棄された白色粘土が写っています。) |
【湯の花の構成鉱物】
別府の湯の花を構成している鉱物は、鉄(Fe)とアルミニウム(Al)の硫酸塩です。代表的なものは下の2種ですが、その他にも種々の硫酸鉄が含まれていると考えられています。それらは、水によく溶け、水溶液は強い酸性を示します。
ハロトリカイト:Al2Fe(SO4)4・22H2O
アルノーゲン :Al2(SO4)3・nH2O(n=16~18)
【原料の青粘土】
明礬温泉および近辺に分布する、「ぎち」と呼ばれる青粘土から生成されます。標準的な青粘土の粘土鉱物はスメクタイトと呼ばれるもので、ケイ酸(シリカ:SiO2)を主成分とし、アルミニウムなどの金属を含んでいます。また、鉄と硫黄の化合物である黄鉄鉱の微粒子が含まれており、これが青色の原因になっています。
【湯の花の生成メカニズム】
湯の花は、次のようなメカニズムで生成されると考えられています。
(1) |
小屋の床下で、硫気中の硫化水素(H2S)が空気中の酸素と化合して硫酸が生じる。 |
(2) |
青粘土層の表面で水分が蒸発するのに伴い、硫酸が粘土の空隙を通って上昇する。この途中で、青粘土中の黄鉄鉱から鉄が、スメクタイトからアルミニウムが溶出される。 |
(3) |
鉄・アルミニウムを含む硫酸溶液が、青粘土層の表面で蒸発するとき、鉄・アルミニウムは硫酸塩となって取り残され、結晶が霜柱状に成長する。 |
【白い湯の花・赤い湯の花】
生成した湯の花の色は、白色を基調としながら、黄色から褐色のものまであり、「白い湯の花」・「赤い湯の花」と言われています。青粘土中に鉄(Ⅲ)(褐色を呈する鉄)が多いとき、赤い湯の花となるようです。
(
由佐悠紀)