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2021年2月4日更新

第11回
ゆめひのきの湯 大仏温泉

自家用温泉の魅力

温泉マイスターの山村尚志さんが、みずから考案した冷却装置を使い、天然かけ流しの温泉を開いた、ということはすでにマスメディアで伝えられたとおりです。2021年1月26日の初湯には別府温泉地球博物館の由佐悠紀理事長が入浴しお祝いの言葉を述べました。要約はこうです。
「日本に温泉地はさまざまありますが、別府温泉の特徴であり大きな魅力となっているのは、自家用の温泉がベースになっているというところ。別府では昔から街のあちこちにそれぞれ個性のある自家用の温泉が作られてきました。この大仏温泉も近隣の人たちの共同温泉として大切に保たれてきたものです」。
戦後すぐの1950年代、山村乙吉さんが自宅の敷地内の温泉を組合員の共同温泉として開いたのが『天満町1区温泉』で、このたび乙吉さんの孫にあたる山村尚志さんが建物を新築しなおし、独特の冷却装置を考案して『大仏の湯』を開いたのですから、ご先祖さまもさぞお喜びのことでしょう。

看板


日本一の大仏さまが建っていた

この温泉を『大仏温泉』と名付けたのは近くに大仏さまが座っておられたからです。
別府市天満町のこの地に日本―大きいといわれるコンクリートの大仏さまがどしりと座って海を見下ろしておられた時代がありました。
大仏さまを建てたのは地元の岡本栄三郎さんというご仁で、貿易や船舶業で儲けすぎたお金をご供養に使いなさい、信仰しなさいと母親から強く勧められて、得度し、大仏建立の一大事業を起こしたということです。昭和3年に完成した大仏さまは、たくさんの観光客を集めて別府の名所になっていたのですが、戦後は長い年月のあいだの雨でお顔もすっかり黒ずみ、平成元年に解体されました。(小野弘さんの史料によります。)
『天満町1区共同温泉』はこの大仏さまをちょうど真北に見る位置にあって、近隣の人たちが温泉の行きかえりに大仏さまの横顔を眺めたものだそうです。

別府湾
昭和3年、別府市天満町に作られた大仏。小野弘氏所蔵の絵葉書より


冷却装置の発想

『大仏の湯』を作った山村尚志さんは、北海道大学農学部園芸学科を出て、全国の国営公園に勤務してきた公園管理の専門家だそうです。東京では立川の昭和記念公園、奈良の飛鳥歴史公園、佐賀の吉野ヶ里歴史公園、そして現役の最後は福岡の海の中道海浜公園のセンター長だったというカッコいい経歴の持ち主です。
で、全国区で働いていた山村さんが定年退職後、故郷に帰ってくるといきなりボランティアガイドを始めて同級生を驚かせたのだそうです。山村さんは別府八湯語り部の会の会長になり、別府八湯温泉道名人会会長になり・・という温泉浸けの活動の中で、古くなった自宅と共同温泉の建て替えを考えたわけですが、温泉全体にどっぷりはまって研究していたので、「どうせ作るなら、源泉かけ流しの、どこにもないものにしたい」と考えたのは当然の成り行きでしょう。
源泉かけ流しを実現するためには、冬でも63度という『大仏の湯』の温度を、どうやって冷ますかというのが最大のテーマだったようです。
齋藤雅樹東海大学教授が考案した「ゆめ竹」という装置の導入を検討したけれど、規模が大きすぎてムリだということが分かった。九重町筋湯温泉にある竹ぼうきを使ったものも見たが、これもどうもしっくりこない。どうしたものか、と考えあぐねていた。
そんな2020年のめちゃ暑い夏、温泉に入っていてふと、木箱ならどうか、というイメージが湧いた。大分では「もろぶた」と呼ぶバンジュウの浅いものを作って、小さな穴をいっぱい開ける。上から落ちる湯をバンジュうで受け、その湯はバンジュウに開いた穴から下に落ちる。
早速、木材でひな形を作り、実験してみたら、60度の湯が三段のバンジュウを落ちる間に50度くらいに下がるという見当がついたのだそうです。
箱の木材をヒノキにすれば、ヒノキの香りが移るかもしれないということで、山村さんの独創的な冷却装置が完成し、斎藤教授が『ゆめひのき』と命名してくれたのでした。
それでこの温泉は『ゆめひのき湯 大仏温泉』という名前になりました。


冷却装置ゆめひのき 一番上の木箱に63度のお湯が落ちてきて、
二番目、三番目と落ちるうちに50度に下がり、湯船に届くころは「ちょうど良い湯加減に」。
実用新案申請中だそうです。


メタケイ酸が豊富で、つるつるの湯

初湯から湯上りの由佐理事長にお聞きすると「ちょうど良い温度ですね。気持ちの良い温泉でした」。で、泉質は「さぁ、分析表を見て下さい。塩化物泉と炭酸泉の混合ではないかと思います」ということでした。
メタケイ酸が豊富ということで、美人の湯と名乗っても誰からも文句は言われないようなのです。

入浴ご希望の方のために
予約・問い合わせはTEL070-1941-1126
HP:https://select-type.com/p/yumehinoki/
〒874-0906 大分県別府市天満町4-6
✿7台停められる駐車場があります。

入口
入口
茜の湯湯舟
『茜の湯』の湯舟はほんのり紅色のタイル模様。
茜の湯備品
碧の湯
碧の湯
『碧の湯』の湯舟は青いタイル模様。坪庭の植栽が素敵です。
イベリス
冬の日も花が咲いているようにとガーデンデザイナーが考えて植えたイベリスの白い花。
ヒマラヤユキノシタも小さなピンクの蕾を見せています。
初湯
初湯
執筆者三浦祥子)

関連記事:ゆめひのきの湯「大仏温泉」オープンのお知らせ


 
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