写真6 青色の温泉(別府市鉄輪温泉の露天
風呂)(別府市誌(2003)より
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【青色~白色系】(温泉水の色)
別府温泉の熱水池(地獄)や露天風呂のなかには、美しい青色をしているものがあります(写真6)。これらの温泉に共通していることは、いずれもが沸騰泉で、ほとんどが「中性~弱アルカリ性」の「ナトリウム-塩化物泉」で、多量のシリカ(ケイ酸)が溶存しているということです。
このような高温の温泉水は、浴槽では入浴に適した温度まで冷やされますから、低温では溶解度が小さいシリカは析出して沈殿します。この過程で、当初は分子状態のシリカは結びついて(重合)粒子の状態になり、いわゆるコロイド〔直径が1nm~1µm程度の粒子:水中での浮遊が可能〕となって水中を漂います。
長さの単位
1nm(ナノメーター)=0.001µm(マイクロメーター)=10-6mm=10-9m
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写真7 白池地獄(別府市鉄輪温泉)
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コロイドのサイズが光の波長〔可視光線:およそ380nm(紫)~780nm(赤)〕より小さいときは、入射する光のうちの短波長の成分(紫~青)が選択的に散乱されるので(レイリー散乱)、温泉水は青く見えることになります。コロイドが結合して、そのサイズが光の波長より大きくなると、全ての光の成分が散乱されるので(ミー散乱)、温泉水は白色に見えることになります。
さらにコロイドの結合が進んで、その直径が1µmを超えるほどに大きくなると、粒子はもはや水中に留まることが困難となって沈殿します。この沈殿物が珪華(シリカ沈殿物)です。写真7は鉄輪温泉の「白池地獄」ですが、池の水は白濁し、沈殿が生じるような状態になっています。実際、池の縁などには、珪華が沈殿・付着しています。池の水がやや青みを帯びているのは、粒径の小さいコロイドが混在しているためと思われます。
写真8 海地獄(別府市鉄輪温泉)
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以上のように、「温泉の青色・白色」と「沈殿物」は、一連の物理的・化学的な過程で結びついているということが出来ます。
温泉水が酸性の場合は、シリカ分子の重合が進まないので、コロイドは生成されません。しかし、温泉水が清澄でプールがある程度深いときには、入射する光の長波長成分(赤色系)が水分子によって吸収されて、青色っぽくみえます。この状態のとき、なんらかの微粒子が混入すると、それによる散乱が起こって、青色が微妙に変化します。よく知られている「海地獄」(写真8)は、その代表的な例です。
熱水(温泉水)中のコロイドはシリカだけではありません。例えば、阿蘇中岳・草津白根山(湯釜)・蔵王(御釜)など、活火山の火口に溜まった水も、シリカコロイドによる青色とは色合いが異なりますが、青色系の色を呈しています。これらは、硫黄のコロイドによる発色と考えられています。写真3の泥火山の火口の水が白いのは、粘土類のコロイドによるミー散乱のためではないかと思われます。
パムッカレ(写真4)の青色温泉水
外部サイトのパムッカレの写真の中には、石灰華テラスの小さなプールの水が青色を呈しているものがありますが、何らかのコロイド(炭酸カルシウム?)によるレイリー散乱による発色ではないかと思われます。
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