(注)ここでは、熱量(エネルギー)にJ(ジュール)というSI単位[とくに科学の分野で、使用することが推奨されている]を使っていますが、日常生活で使われている単位で表すには4.19で割って、k(キロ)を外してみてください。100℃の水は100cal/g、100℃の水蒸気は639cal/gとなります。水と水蒸気の差「539cal/g」は、おなじみの蒸発熱(気化熱)です。
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2014年9月9日更新
第15回
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図1 噴出流体の密度測定法〔湯原(1964)より〕 |
ピトー管とマノメーター(差圧計)を組み合わせた方法(図2)を用いて、噴出口中央の最大速度vmaxを測定する。〔ピトー管・マノメーターについては、外部リンクを参照〕
マノメーターで測定した差圧(全圧と静圧の差)をpとすれば、流体の流動に関する「ベルヌーイの定理」に基づいて、vmaxが次のように算出される。
図2のようにU字管マノメーターを用いた場合、その液体の密度をm、液面の差をhとすれば、pは次式で表される。
マノメーターの液体には、噴出勢力が弱い水蒸気の場合は「蒸留水」が、噴出勢力が強い場合は「水銀」が用いられた。
噴出流体の流速は、流体に粘性があるため、噴出管中央での最大速度vmaxから管壁に向かって小さくなり、管壁では0となる。したがって、噴出量を算出するには、平均流速vmを求める必要があり、いくつかの仮定のもとで、湯原は次の関係を導いた。
図2 ピトー管とU字管マノメーターによる流速測定法 |
以上のデータから、噴出量Qと噴出熱量Hが次のように算出される。
噴出流体の物理的性状を表す代表的な数値は温度と密度であるが、これらに加えて、気体と液体の重量比は、エンタルピーと関わりのある重要な数値である。「乾き度」とは全体の重量に対する気体(水蒸気)の割合で、「湿り度」とは液体(熱水)の割合を指す。水蒸気と熱水の混合流体が噴出する沸騰泉では、これらの数値はとくに有意である。なお、言うまでもないが、両者の和は1である。
一定時間に噴出する流体の体積をV、水蒸気と熱水の体積をそれぞれVsおよびVw、測定された密度を、その温度(沸点:1気圧では100℃)での水蒸気と熱水の密度をそれぞれsおよびwとすれば、次の関係が成り立つ。
他方、乾き度xは(D)のように定義される。
前出の(A)および(B)・(C)・(D)を用いると、乾き度xなどについて、さまざまな表現が導かれるので、必要に応じて適切な表現を選べばよい。
なお、噴出流体のエンタルピーをi、水蒸気および熱水のエンタルピーをそれぞれisおよびiwとすれば、次の関係がある。
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湯原が調査した当時の噴気・沸騰泉の数は148孔、すべてが掘削井です。そのうち、36孔は微弱なため測定できず、結局112孔のデータが得られました。この調査によって、噴気・沸騰泉からの噴出量・熱量の実態が初めて明らかになりました。なお、自然の噴気については、困難さもあって、測定されませんでした。
その後、1960年代を中心に、別府では温泉井の新規掘削が進み、井戸数も採取水量・熱量も大きく増加しましたので、湯原の結果の代わりに、温泉開発が飽和状態に達した1985年頃の状況を図3と付表に示します〔由佐・大石(1986、1987、1988)による〕。
噴気・沸騰泉の多くは別府温泉の熱源域に近い高地部にあり、それらの数は源泉総数の10%に満たないにもかかわらず、噴出する水量は全体の43%、熱量は78%に達するほど大きく、極めて重要な位置を占めていることが分かります。
このようにして得られたデータは、単に「数値」というだけではなく、別府温泉の仕組み(引いては、温泉のメカニズム)を考察する上で、基礎となるものです。
付表 1980年代中頃における別府温泉の源泉数・採取水量・採取熱量(0℃の水基準)
(一般温泉と噴気・沸騰泉の比較)
源泉の種類 | 一般温泉 | 噴気・沸騰泉 | 全 体 |
源泉数 | 2,037 | 207 | 2,244 |
水量:トン/日 | 28,410 | 21,510 | 49,920 |
熱量:ギガカロリー/日 | 1,616 | 5,651 | 7,267 |
(注) | 過熱蒸気(100℃以上)の孔数:14 |
最高温度:137℃(小倉地区) |
【追記】
ここに記した測定には困難なことが多く、とくに湿り度が大きい沸騰泉の場合、密度測定が難しいことに加えて、ピトー管による差圧測定においても、マノメーターの液面が不規則に振動して不安定なので、かなりの誤差が生じる懸念があります。本項の執筆者も同様の測定を数多く行いましたが、密度測定には手製の熱量計を用いました(由佐、1977)。しかし、これもまた困難かつ手間が掛るので、多くの場合、噴出流体を熱水と水蒸気に分離して(各源泉に設けてある貯湯タンクを利用する)、それぞれを測定しました。ともかく、この種の野外調査は、設備の整った室内実験のようにはいきません。状況に応じて、さまざまな工夫をする必要があります。